<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ローラ、決心する




ローラが、スティーブに相談をしてから…1週間。

歴史の自習時間。先生のいない教室は、課題が出されてはいるものの、静か、とは言い難い雰囲気が漂っていた。

まじめなローラは、それでも、いっしょうけんめいノートに書き込みをしていた。…と、スティーブがこつ、こつ、こつ、と椅子のふちをたたく。2人だけがわかるいつもの合図だった。

( スティーブも、まじめよね。…自習なんだし、声かけてくれればいいのに… )

振り向いて声をかけようとすると、スティーブはあちこちを見回しながら、こめかみに親指を立て、眼をくるくると回している。〜退屈になると時々彼がクラスメートにやる、おふざけだ。…まあ、自習だし、課題は誰も進んでやりたいたぐいのものではない。…ローラも、ふっ、と気を抜き、笑顔で応える。

と、視界の端に、彼の長い手がアンダースローで、なにかを、ふっと投げたように見えた。

ふぁっ。…ていねいに折りたたまれた紙が、ローラのひざに着地していた。

( …? なに? )

馬鹿げたジェスチャーの最後に、ちょっと笑顔を見せたかと思うと、スティーブは何事もなかったかのように、また、ノートに向かい始めていた。

しかし、ひざの上には確かに紙があった。…あまりにも一瞬の出来事で、ローラは、それがほんとうにスティーブからのものかどうかも、あやふやな感じがするほどだった。

しかし、紙片をこっそり開いてみると、それは確かにスティーブからのメモであり…しかも、ローラが待ちこがれていた、大切なことが書かれていたのだった。

つまり、要約すると…こんなことだ。

A・成長促進剤GSのスティーブ改良版はきわめて順調
B・彼の両親のお墨付き!
C・もっと願いを早く実現できる可能性あり
D・それには、その人の血液が必要
E・そうすれば、服の2〜3サイズアップなどあっという間?!

ローラは、それを読みながら、うきうき、そわそわとした気持ちと、なんとなく落ち着かない気分とが心の中で混じり合い、複雑な思いにとらわれていた。

( 大きく、なれる! …モリィ姉さんみたいに? 胸も? )
( 服、どうしよう? それに、パパもママもびっくりしちゃう…? )
( でも、でも、そしたら、リック兄ィから、ちびモップ、なんて馬鹿にされなくなるし… )
( それで…、ティムに、お似合いの、ひとに? )
( だけど…きゅうに、あんまり大きくなっても…病気みたい、かな… )
( でも…早く、早くなりたい…。スティ、そうよね? )
( そうなんだ、けど…血液、なんて、どうすれば… )

いろいろなことが一挙に頭の中を駆けめぐり、とても自習どころではなくなってしまった。

あっという間に自習時間が終わり、教室には、授業も残り1時間になった、緊張の解けた空気が流れる。みな、放課後が待ち遠しいのだ。

スティーブは、ローラに軽くウインクして教室を出ていく。彼だけは、この後、3年の2時間授業だ。

「…あ、あの、す…スティ…?」

声が届く前に、もう彼は教室を出ていた。…おそらく、「飛び級」の授業で使うテキストを自分のロッカーに取りに行ったのだ。

あ、あたし、どうしよう? どうしたら、いいの?

手はもたもたと、机の上を片付けてはいたが、頭の中は依然として整理のつかないまま、そこに焦りも加わった、なんともいえない気持ちが加わってくる。

と、その時。

…ローラの下腹部に、ほわん、と、暖かい、だが、あまり心地よいとはいえない感触が走った。

( …あ… )

ローラの心の中に、ふ、と、なにかがひらめいた。…

すぐ、スティーブの後を追いかける。あわてて廊下へ出ようとしかけたが、ふと、メモの、最後の言葉を思い出す。

「 ついしん:読後、廃棄のこと!  -Your Eyes Onlyだからね- 」

あたふたとメモをゴミ箱に放り込んで、ロッカールームへ向かった。





ほとんど人気のない、ロッカールーム。

あわてて小走りしていたローラは、他に人がいないか、きょろきょろとまわりを見ながら、中に入ろうとする。…

と。

ぼすん。

誰かの人影に、まともに正面からぶつかってしまう。…自分の顔が、すらりとしたそのシルエットに飛び込んでいた。

「…おっとお、あぶないあぶない…あ、なんだ、ローラ?」
「…ご、ごめんなさい! …あ、スティーブ…」
「どうしたんだい? ぼくに…なにか?」

ローラは、スティーブのちょうどみぞおちの辺りにぴったりくっついたまま、に軽く肩を抱きかかえられてしまっていた。あわてて、ぴょん! と1歩飛び退くと、なにを言おうとしていたか、いっしょうけんめい思い出そうとする。

…胸がどきどきしていた。

そして、くる、くる、と辺りを見回し、まわりに人がいないことを確かめ、にこにこと微笑むスティーブを見上げ、つま先立ちして、小声で話しかけようとする。

「あ、…あの、スティーブ…」

いっしょうけんめい背伸びして、話しかけてくるローラは、とても可愛らしい。( はは、なんだか、おてんばな子猫みたいだな… )

…スティーブは、同い年なのに、ローラがすいぶん年下の女の子みたいに感じられた。ちょっとかがむと、彼女の口元に耳を近づける。

「あの…ね、スティーブ、さっきのメモ、ありがとう…」
「ああ、あれね、どうすれば、いいかな? そんなに急がなくても、いいと思うけど…」
「…あ、あの…メモにあった、血液の、ことなんだけど…」
「あ、いけね。ごめん、無茶なこと書いちゃったかな? でも、ほんの少しでいいんだけどね。わざわざでなくても…
う〜んと、たとえば、逆づめ剥いちゃったり、のぼせて鼻血出ちゃったり、とか…、
そんなときにティッシュでいいから、吸い取ったくらいでいいんだけどね…」
「…スティーブ、あの…その、血液って…」

ちょっと、ローラは言いよどんだ。ふいに語尾が消えたので、スティーブは顔を上げ、彼女の顔をのぞき込む。

ローラの顔は、今まで見たこともないくらい、耳まで真っ赤っかになっていた。しかし、表情は真剣そのもの。

なかなか次の言葉がでないのか、もじもじしているローラを見て、スティーブは、じっと次の言葉を待つ。

「あ、あの…その…血液…お、女の子の、あの…。……その、メ…メンスのときの、…でも…いい?」

「…え、え?…」  ( … メ…メンスって… )

スティーブもかぁ〜っと頬が熱くなるのを感じた。

「…あ、ああ、もちろん。で、け、血液は多いほうが、ぼ、ぼくも成長因子を取り出しやすいから…。
あ、で、でも、ほんと、ど、どんなのでも、いいんだ…
…う、うん、き、きょうだい、…え、えーと…そ、そう、リック?…彼のでもだいじょぶ、かな?
…せ、成長因子は親やきょうだいの間だったら、交換可能…だからさ、ね。…お兄さんのほうが、ぶ、部活動で、擦り傷とか、よく、作って…」

冷静に返事をしているつもりが、スティーブも急なローラの申し出にあわてふためき、途中から、自分でも何を言っているのか混乱しはじめ…

その途中、予鈴のチャイムが鳴りはじめる。

はっと我に返り、スティーブは背を伸ばすと、まだ頬を赤らめたまま、ローラの両肩にやさしく手を載せる。

「…あ、もう次の授業だ…。ローラ、また、いつでも相談に乗るよ。けど、血液は、そ、そんな急がなくても、だ、だいじょぶだから。…じゃ、またあした。」

2,3度、肩を軽くたたかれ、顔を真っ赤にしたローラ。
…そこに立ったまま、スティーブが3年生のクラスへ向かうのを、ぼ〜っと見送っていた。



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