<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ティムの妹、計画する



ところが、である。

スティーブの研究のことを知ったのは、ローラ1人だけではなかった。…しかも、同じクラスにいた。

ティムの妹、リナだった。





リナは、ティムにとってだけでなく、ローラのクラスでも‘いじわるで、きつくて、こまっしゃくれたガキ’だった。…しかし、ティムがいらだつ彼女の性格は、学校の中に限っていえば、クラスの女の子同士にしか見せなかった。
そのせいか、彼女の性格は一部のクラスメートの気持ちをうまく操るのに役立つだけでなく、自分が王女のように振る舞うことにまで成功していた。

しかも、クラスの男の子たちも、リナのいいなりになりがちだった。…しかも、自ら喜んで。

その原因は、彼女の美しさにあった。肩まで伸びたブロンドの髪、つん、とすました鼻、そして切れ長の瞳。リナはじっさいの年齢にくらべれば、ずいぶん大人びて見えた〜ただし、それは同じ中学1年の男子から見れば、ではあったが〜。
しかし、彼女自身そうしたことを自覚しているのか、男子のいるところで見せる態度は、女の子にだけ見せる‘きつさ’とはまったく別物の、‘賢さ’や‘しとやかさ’を備えていた。

「あの…お願いがあるの…」

それが、彼女の男子への“殺し文句”だった。身長は148cmと、クラスの中でも小柄な方だが、その身体に86D−50−81という、悩殺プロポーションを前に、瞳をうるませてそう頼まれたら、断れる者はそういないだろう。
リナは、そんな自分の‘長所’をじゅうぶん知り尽くしていた。そして、必要ならば、他人のことなどおかまいなく、自分の思い通りにするためには、どんな手をつかおうとする、ある種の冷たさを持っていた。

その上、彼女は、どんなことでも自分が‘一番’でないと気が済まないという性格の持ち主だった。従って、自分のことはもちろん、自分と関わりのあること全てが‘最高’だ、と思える状態を作り出すことに、日々全力を注いでいるのだった。
(したがって、兄のティムは、背丈も勉強も、中の中であり、かろうじてクラブ活動で全郡一になったフットボールだけが、唯一妹に認めてもらえている状態だった…)





そんなリナのことを知ってか知らずか、なぜかスティーブは、彼女に対して好意、というか、ある意味‘恋愛感情’に近いものを感じていた。

…というのも、クラスの大半の女の子が、自分のことをなぜか敬遠している中、リナは‘比較的’自分に話しかけてくる、希有な存在だったからだ(もちろん、席のとなりにいる、明るくてちっちゃくて、妹みたいに感じているローラは例外だ)。

それで彼女お得意の、「あの…ね、スティーブ、お願いがあるの…」から始まる、彼女との会話は、彼にはとてもドキドキするイベントだった。…もちろんそれが、物理や化学のテストの山かけや宿題のことについてがほとんどで、放課後、どこかに遊びに行く、とか、休日に映画を見る、といった話はまずないとしても。

リナにとっては、クラスのほとんどの男の子はまったくもの足りない‘お子ちゃま’だった。しかしスティーブは、ただ一人クラスを「飛び級」して3年生並みの頭脳を持ち、その上大学にいる両親の研究を手伝いしている‘秀才’だった。
その割に、学問一筋のガリ勉、といった風貌ではなく、眼鏡はかけているものの、センスのいい細身のボストンフレームが似合うハンサムで、それが172cmという長身と相まって、11歳の中学1年生とは思えない、大人びた雰囲気を醸し出していた。

…そんなスティーブは、リナにとって、勉強のことはもちろん、そしてもし学校で二人になる場面があったとしても、自分のわがままで高い要求水準を満たしてくれる存在になりうる、数少ない男の子だった。

その上、彼は“成長促進剤”を完成させたという!

…それを知ったのは、ほんの、偶然だった。

休み時間のこと。週番で先生に頼まれ、体育館の裏にある焼却炉へ不要になった書類を燃やしに行った帰り、珍しくスティーブとローラがいるのを見つけた。二人は、なにやらひそひそ話をしていた。

「…前に話した成長促進剤ね…テスト段階…」
「……あの、ね、スティーブ、それ…」
「…実は、薬の配合を間違えて…もっと強力な効き目の…」
「いちにちで…2倍?」
「…どのくらいの量でどれだけ成長するか…」

柱の陰で、全部は聞き取れなかったが、どうやらスティーブが‘身体を大きくする薬’を作ってしまった、という話だ。

それを聞いたとたん、リナの中で、少しずつ、ある計算が始まっていた。
それは…今もこの学校に伝わる〜特に男の子の間によく知られている〜ある女性の伝説に関係があった。

モリィ・マウンズ。

身長は160cmと、やや大柄な女の子だった、という。その伝説は、彼女の身長ではなく、その豊かな胸に由来していた。

入学時点で、すでに88のE。卒業時点では90のGになった、という、とてつもないバストの持ち主だった、と聞いている。その胸について賞賛する歌まであった、という。

ある時、暇つぶしにこの伝説について、自分の情報網〜こうしたのを作るのにかけては、リナはずば抜けた才能の持ち主だった〜を使って調べてみたら、伝説の主は、兄の幼なじみで、しかも、クラスのローラの姉・モリィのことだった。…ローラを見ていると、とてもそうは思えないが。

しかし。

スティーブの作ったという“成長促進剤”さえあれば…。
もしかして、自分が、リナ=ドゥーガンが、その‘伝説’を書き換えることができるかもしれない…

そうすれば、自分のクラスだけでなく、全校のどの男の子も、自分の言うことを聞くようになるかも…。それだけではない。…年上だ、というだけでいつも自分のことを馬鹿にしている‘ばか兄貴’のことだって、かんたんに自分の言いなりにできる…

〜ティムの妹は、そんなことまで考えていた。

そのためには。…まずは、スティーブだ。彼に、自分の願いを聞いてもらわなければ。
しかし、このことは、今までのテストや宿題、のようにはいかないはずだ。

そう…お願い、というよりは、相談、をすればいい。
女の子が、男の子にする、プライベートな「相談」として。


…そこまで、頭の中での計算が進むと、リナは、どのタイミングで「相談」をすればいいか、考え始めていた。

思いついたら、すばやく行動。

…それが、彼女のモットーだった。


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