<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ローラ、準備する




…どうやって、家にたどり着いたか、よく覚えていなかった。自分でも、スティーブに言ったことだけが、頭の中をぐるぐると回っていた。

( 「女の子の……その、メ…メンスのときの、…でも…」 )

たしかに、毎月、必ず女性は出血している。しかも、ローラ自身、もうそれが間もなくあることを、おなかのふわん、とした感じが、次第に鈍い痛みに変わっていることから感じとっていた。

( …はじまったら…忘れずに… )

学校でのスティーブとのやりとりで、かなり緊張していたせいか、ローラは帰ったとたん、自分のベッドに倒れ込んだ、そのままの状態で、眠りに落ちていった…。





目覚めたのは、もう、夜だった。…今週は両親が出かけているので、姉妹で夕食の支度をすることになっていた。
ローラは、なにか手伝えることがないかと、あたふたと、ダイニングへ降りていく。

おいしそうなにおいが漂ってくる。…モリィは、料理についてはかなりの‘こり性’だった。

…あまりじっくりやりすぎるため、いつもよりも食事が始まるのが1時間以上遅いのが常で、リックは、そのことでいつも愚痴をいう。
が、「文句あるなら、食べなくていいわよ」…そう、一蹴されてしまう。

もっとも、その味は、待つだけの価値のあるものだったのだが、いかんせん、育ち盛りで毎日部活動でめいっぱい身体を使い、はらぺこで帰っても、さらに待たされるリックとしては、ちょっとは文句を口にしたくもなるのだろう。

その‘こり性’をスピードアップする役目が、ローラの役目だった。

魚介類とオリーブオイルのいい香りに、鼻をひくひくさせながら、キッチンに入っていく。と、そこには、ダイニングで半分眼を閉じ、組んだ手の上にあごを載せ座っているモリィがいた。…妙に憂鬱そうな表情。

エプロンをして、モリィの脇に行く。と、モリィがうつろな声を出して、ローラにしなだれかかって来た。

「…あ…ローラ…待ってたの。…ね、サラダ、つくってくれない? …あと、いつものパエリア…下ごしらえはしたから…あと、お米入れるだけだから…」

「…どうしたの? 姉さん? どこか、ぐあい、悪いの?」
「…あ〜。その…あれ。…きちゃった…今回は、ヘビィなの…う〜」

そう言うと、ふら〜り、と、全身をローラに預けてくる。
頭の上にあごを載せられ、両肩にその凄まじい大きさを誇るバストがのしかかる。ローラは全身でその重みを受け止めながら、倒れそうになるのを必死でこらえた。

「…わ、わかった。遅くなって、ごめんなさい。あとはあたしがやるから…休んで、姉さん。」
「…あ、ありがと、ローラ。…もう、いやんなっちゃう…あ、っつつ!…ごめん、ちょっと、トイレ…」

よろよろ、と、ローラを支えにして立ち上がると、おなかの下の方を押さえながら、キッチンを出て行く。…モリィの‘月のモノ’は、いつもかなりひどいが、今日は相当ひどいようだ。
それでも、なんとか夕食の準備をしてくれていたのだ。
…いつものはつらつとした姿とは別人のような、姉の後ろ姿が見えなくなるまで、ローラは、心配そうに見送る。

トイレのドアが閉まる音を聞くと、うん、と自分に声をかけ、冷蔵庫からレタスやにんじん、やトマトなど、サラダの材料を取り出し、いそいそと準備にかかる。

…キッチンシンクとグリルの真下には、背の低いローラ用に、高さ15cm、長さ1mほどの台があり、10cm程度の幅に、ローラはいつも器用に足をかけて、いろいろな家事を手伝っていた。
腕は母親と姉仕込み。てきぱきとサラダをつくり、グリルにかかっている鍋の様子を見る。

鍋の味見をしてから、炒めてあった米とブイヨンなどを流し込む。あとはオーブンだ。予熱する状態にしたところで、モリィがさっきよりはしっかりした足取りで戻ってきた。

しかし、ぽす、と、力無くダイニングのいつもの席に腰掛ける。
その次は、テーブルにぐて〜、と脱力しきった姿勢で、突っ伏した。

あわてて台から降り、とととと…と、隣まで行くと、ローラは背中をさすってあげる。

「だいじょうぶ、姉さん?」
「…う゛〜。…つ、つらい…。正直、こんなひどいの、ひさしぶり…」
「ちょっと、部屋で休んだら? …あと、あたしでも、できるから…」
「…う、うん。ありがと。…んもぅ、…また、あそこから血が、どばー、よ…ナプキン、2つ使っちゃった…痛いのと比例してるんだから…。あ、…ごめん、パエリア、味、どうだった?」

語尾はもうささやきに近かった。かろうじて聞き取ったローラは、グリルでふつふつといい香りで煮立つ鍋から軽くひとさじすくい小皿に採ると、ようやく肘で頭を支えたモリィに持って行く。

「…ん…。オッケー…だね。…あと…オーブンで2〜30分、かな…さいごに、オリーブ、忘れないで…」
「うん…ほんと、だいじょうぶ? …できたら、声かける。たいへんだったら、持って行く。」
「…ほんとに、優しくて、いい妹を持って…うれしいわ。ありがとう…そうしてくれる?」

また、ぽへ、とテーブルに突っ伏しながら、そう、切れ切れにつぶやく。
「 …月イチの行事、ったって、ちょっと…ねぇ。…」

ローラが手を貸してやり、ようやくもたもた、と立ち上がると、モリィは、ふらふらしながらも、自分のベッドルームに向かう。

それを見送ったローラは、煮詰まりはじめるぎりぎりになった鍋に、あわててホイルをかけ、あつあつのオーブンに入れる。…両親が本場スペインで手に入れた鉄のパエジェーラは、ローラにはちょっと大きく重かったが、どうにか、ひっくり返さずに入れることができた。

サラダも作り終え、テーブルセットも済ませ、やることがなくなったローラは、ダイニングでひとり、なにをするでもなく、ぼーっと待つだけになっていた。
…気がつくと、帰ってきてすぐよりも、下腹部の鈍い痛みが心なしか大きい。

( …あたしも、モリィ姉のこと、言ってられない、かな… )

そのとき、とつぜん、なにかが、ローラの頭にひらめいた。…衝動的に、トイレに急ぐ。

備え付けのトラッシュボックスを開けると、モリィが捨てた、ナプキンがあった。折りたたまれたそれは、吸収剤いっぱいに染み込んで、外側のガーゼ帯に、赤い華が…ほわり、ほわりと咲いていた。

( …もしかして、これ…姉さんのから、成長…いんし? を取り出してもらえば… )
( …あたしや、リックにい、のよりも、ききめが…あるのかも… )

誰もいないのに、ローラはきょろ、きょろとあたりを見回すと、とととと…と、キッチンへ戻り、ジップロック付きの冷凍用ビニルパックを取りに行き、再び、トイレに戻ってくる。

トラッシュボックスから、そっと、モリィの経血のたっぷり染み込んだナプキンを取り出し、使っていないナプキンで包みパックに入れる。
そして、大事そうに胸にかかえ、またキッチンに戻る。…冷蔵庫のフリーザーを開き、その奥、誰も気づかないところに、そっと包みを隠す。

( これを…スティーブに渡して…。これで、あたしも…おっきく… )

…どのくらい時間が経ったのか、ローラがそんな思いにとらわれていると…

ばぁん! 玄関のドアが勢いよく開き、リックの元気な声が聞こえてきた。

「たっだいまぁっ! あ〜腹へったぁ!」

それで、はっ、と我に返るローラ。…どかどか、と元気な足音と共に、リックが鼻をひくつかせながら、ダイニングに入ってくる。そのとき、オーブンのタイマーが、チン! と軽やかな音を立てる。

「やりぃ! モリィ姉のパエリアだね! …今日は、練習が遅かったんで、タイミングばっちり、かい? お、ローラ! …モリィ姉は?」
「うん、ちょっと具合悪いって…寝てるの。でも、だいじょぶ、だと思う…」
「…そっか。よし。じゃ、俺が…」
「…? 」
「…手を洗ってくるまで、待ってくださいね、ローラ‘ねえさま’。
なんだったら、俺が食事、モリィ姉に持って行っても、いいよ。さ、準備しといて。ね、ローラ。」
「…あ、う、うん。モリィ姉、さっき寝たばっかりだから…」
「それじゃ、早くそのうまいパエリア、食っちまおうぜ! 着替えてくる!」

ばたばたと、ダイニングを出て行くリックを見送ると、ローラは、オーブンから、大きなパエリアの鍋をテーブルへ。

…その後、リックの部活動の自慢話を聞きながらの食事からモリィの世話、後かたづけをする間も、ローラはフリーザーの中の‘秘密’を忘れることはなかった。


…そして、それを使って、スティーブの手で‘おっきくなる自分’を…。



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      どこかに。いただきもの。を

 

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