<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ローラ、スティーブに相談する




…あくる日。

ローラは、思い切ってクラスメートのスティーブに相談することにした。

彼の両親は生化学者と遺伝子工学の権威で、彼自身その手伝いをするほどの才能の持ち主だった。
ただ、両親ともに“ふつうの子”として育てることに重点を置いていた。…と、いうわけで、11歳で中学に入ったときから、化学や物理など、理科系は3年のクラスに飛び級しているものの、ローラとはクラスメート、という関係にあった。

おまけに、スティーブは席がとなり。苦手な英語や地理の時間に、彼が窮地に陥るたび、親切な“ちっちゃなモップ”が何度も助けていた。
引っ込み思案のローラとしても話はしやすい仲だった。

…その上、1ヶ月ほど前、彼自身の口からこんな話を聞いていた。

(パパが成長促進剤の研究をしてるんだけど、ぼくが間違って合成した酵素が、すごい効果があるみたいで、最近毎日手伝いしてるんだ!…骨髄細胞や筋繊維に直接働きかけて、芽細胞の増殖を加速させる…)
(…?? せいちょう・そくしん?) (あ、うん、かんたんにいうと…そうだな、背が高くなる薬、ってこと、かな。できあがったら、ローラ、使ってみる?)……

その時は、途中から難しい説明になったので、あまり興味もわかなかったが、“成長促進”という言葉だけは、ローラの心にしっかりと刻み込まれていた。

「…あの、スティーブ。…あの、ね、前に“せいちょうそくしん”の、くすりの事だけど…。」
「ああ、GSね! あ、いけね…」「…?…」
 急にスティーブが声のトーンを落とす。
「あ、ごめんローラ、ちょっといいかな? …ないしょ、話、ね。」
「…うん。…」

 なんだかよくわからないまま、ローラは廊下へ出て行くスティーブの後を追う。頭脳に合わせてか、スティーブは身長172cmもある。しかし、身長わずか122cmの“ちっちゃなモップ”がついてくるのに合わせ、ゆっくり、ゆっくり歩いている。…それは、人けのない場所を探すためでもあるようだった。

廊下のそこここで立ち話をする生徒たちの間をすり抜けて行くと、体育館のそばにある水飲み場まで来た。ようやく、人の輪が切れる。…周りにもだれもいないことを確かめると、スティーブはようやく立ち止まる。
水くみ用の、一段低くなった所に腰掛けてくれたので、ローラは彼をやや見下ろすかたちになった。

「…よし、ここならいいや。ローラ、さっきのGSのことなんだけど…」
「…GS、って?」
「あ、そうか、前に話した成長促進剤ね、もう基礎部分が完成して、ベータテスト段階なんだ…で、コードネームがGrothSpurtでGS、なんだ。」
「…完成? もう、できちゃったの?」
「そう、ベータテストって、志願者を集めてテストしてる、ってことなんだけどね…ちょっと、パパが、あんまり人に話すな、っていうんだよ。」
「……あの、ね、スティーブ、それ…」

もじもじしながら、ローラが話し出そうとすると、スティーブは、さらに声を潜めて、しかし、なんだかいたずらっぽい表情で唇に指を当てる。

「…しーっ! 実はね、ボク、薬の配合を間違えて…そしたら、いまのベータ版より、もっと強力な効き目のあるGSができちゃったみたいなんだ!」
「…え?」
「そうなんだ…パパがいないときに、こっそりマウスとミニモンキーでテストしたら、1日で倍の大きさになったんだ。すごいだろ?」
「いちにちで…2倍?」
「うん。それでね、いま、もっとうまく濃縮できそうなところなんだ…」

ローラはそれを聞いて、びっくりして、心臓がドキドキしはじめたのを感じた。…すごい! その薬さえあれば…。

「…ね、スティーブ、それ、あ、あたしが使ったら…どうなるの?」

ローラが珍しく話に割り込んだので、スティーブはちょっと驚いたが、すぐ、その言葉の意味を察して話を続ける。

「え? あ、そうか、前に話したときのこと、覚えてたんだね…ううん…どうかなぁ…? 元々は人にベータテストをやってるから、心配ない、とは思うんだけど…でも、どうして?」
「……あの、その…」
「…あ、ごめん。理由は、まぁいいや…でも、ほんとにどういう影響があるか…むむむむ…。」
「…おねがい、スティーブ。あの…」
「……」

スティーブが顔を上げると、両手を胸の前で組んでじっと自分を見つめるローラの顔があった。とても真剣な、なにか思い詰めたような表情を見て、彼はなぜか頬が熱くなってしまうのを感じた。

「…わ、わかったよ、ローラ。…いつも助けてもらってるし…ね。…でも、、ちょっと、もう少し時間くれるかな? どのくらいの量でどれだけ成長するか、なるべく正確な効果を計算してみるから…。」
「…ほんとに…?」

不安そうだった、ローラの顔がぱぁっと明るくなる。

「もし、うまく準備できたら、だよ。…それから、これ、ボクと君だけの、秘密だよ。みんなには内緒にしてくれる? …特に、パパに知られたら大目玉、くらっちゃ…」

その声はとちゅうでとぎれてしまう。ローラが、思わずスティーブの手をとり、しっかり握りしめたからだ。それで、彼の顔は、ゆでたエビのように、ますます真っ赤になってしまった。



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