【美智】その3



「ね、ね、…どうだった?」  いきなりの、質問だった。

美智ちゃんに、初めての体験を、させてしまってから、2週間。…香さんと、久しぶりの夜。上になって2回、さらに下から砲弾バストを嬲らせて、くたくたになったところに、艶やかに上気した肌に汗をきらめかせながら、香さんが、あっさりと聞いてくる。

「…え?」 ちょっと、どきっ、とする。 なんで? …まさか、美智ちゃんが?

「え、じゃなくって。…シたんでしょ? 美智と? ね、どうだった?」
「…あのう、香さん…」
「なに?」
「…ええと、いちおう、美智ちゃんの、お母さん、ですよね?」
「もちろん。…だから、心配してるんじゃない? …あなたのコ・ト。」
「は?」
「いや、だって、ね…」 そこで、急にもじもじする、香さん。
「正直いって、アタシの家系って、もう女性が強いのよ、いろんな意味で。…もちろん、これ、もね。」

そう、言いながら、自分のデルタ地帯で、やさしく、ぼくのモノを愛撫する…。

「…だって、まだ12歳になって、半年よ、は・ん・と・し! そんな小娘に、あなたみたいなテクニシャンに、アノ快感を味わわせられちゃったら…。エネルギーがあり余ってんだから、あなた、どうなっちゃうか、わかんないわよ…」
「あのう、それって、香さんのことじゃ…」
「いやん、そんなことないけど? いちおうオトナですから、あなたのことも考えてシてるつもりよ…」

(そういうひとが、男の人を2時間で3発もイかせるかなぁ…) と、思うが、口には出せなかった。
 そんな気持ちを知ってか知らずか、急にまじめな顔になって、香さんは続ける。

「ま、それは半分冗談として…美智がね、なんだか、あなたのこと、好きになってるみたいなの…ね。」
「いや、まぁ…その…光栄です…けど。…なんていうか、あこがれの、裏返し、っていう、
 ありがちなパターンじゃないですか、それは。」

「…そのくらいの、カンチガイであればいいんだけど、ね。 …素直に、エッチされちゃって、どうしよう、っていう相談なら、こっちも、〜自分でいうのもナンですけど〜明るいゲルマンですから、いろいろとアドバイスしちゃったりできるけど…。 それがストレートに出てなくて、恋心が混ざってくると、ちょっとややこしくなっちゃうわけ。…だって、最近の美智って、あなたには、すんごく恥ずかしがり屋さんに、なってない?」

「…あ、そういえば…」
「んもう、だから男の人ってば…ニブイのよねぇ。…最近あのコ、毎日慰めてんのよ。」
「え? …?」
「でね、『陽一にいちゃんのこと考えると、胸がきゅん、ってなるけど、それが、ヘンなことになっちゃって…それを知られたら、きっと嫌われちゃう』…なんて相談されてみなさいよ…。」
「……」

「そのまま、ぽろぽろ泣かれちゃったら、せいぜい『すき、って想うのと、するっていうことは、ちっとも恥ずかしくない。普段通りにしてればいい』って言うくらいしか、できないわ…」

…ちょっと、それは…自分でも、どうしていいか、わからない。

…あの日、勢いだけでヤってしまったことで、美智ちゃんが悩んでる…なんてことになってるとは、まったく気がついてなかった。

…どおりで、最近、家庭教師もたのまれなくなったり、食事の準備や後かたづけを手伝おうとすると、なにか別の用事を見つけて、その場からいなくなったり…食事のとき、香さんに胡椒の瓶を取ってあげようとして、手がちょっと触れただけでも、のぼせたように真っ赤になっておろおろしてたのは、もしかして、このせいなのか?

…と、いつの間にか、横にぴったりと添い寝をしている香さんが、またまたびっくりするようなことを耳元でささやく。

「…んもう、しょうがない。アタシはもういいから…ちゃんと、美智に教えてあげなさい。ね?」
「はぁ?」

「いや…だから…これを、ね。ちゃんと…」 そういいながら、きゅ、と股間を握る。
「…シてあげるの。このままだと、あのコ、どうにかなっちゃうもの…週に1〜2回…あ、シなくても、いいかもね。…しっかり抱きしめてあげたりするだけでも、だいぶ落ち着くかもしれない。…ね、おねがい…」
「……はぁ。」

なんだか、ずいぶんとむちゃくちゃな理屈のような気がする。しかし、最初は冗談めかして言っている香さんの口調が、最後の方では、いつになく真剣になっていった。…それを聞いていると、とても「やめときましょう」などとは言えない…。

その後は、どうしたら、今まで通りの美智ちゃんに戻ってもらえるか…を考え、ベッドの中で香さんといろいろ‘計画’を練る羽目になった。…と、いっても、単にぼくが‘年頃の女のコ’の対処法について香さんから一方的にレクチャーされてるだけだったが…

しばらく元気のない美智ちゃんが、そんなことくらい(というと失礼だが)で、元に戻ってくれるなら。…そう思う気持ちと、(とんでもないことに巻き込まれてないか?)という気持ち。それが、半分半分に心のなかでわき上がっていた。



皮肉なことに、そんな会話をした翌週早々、またしても海外出張を引き受けなければいけなくなってしまう。今度は3ヶ月近い。しかも、出張先の人間が急病になったため、その週のうちに現地入りする必要があるという。

ばたばたと支度をし、香さんはもちろん、美智ちゃんともほとんど話しをするヒマもないままで、出発することになった。…さすがに、出かけるのが日曜日だったので、2人とも見送りをしてくれたのが、救いといえば救いになった。

空港のロビーで、香さんの、いつものおおらかな抱擁を受ける。それが終わると、すかさず、もじもじしている美智ちゃんの手をとる。と、彼女の顔がかあーっと赤く染まった。

かまわずに、その手をがっしり掴み、力をこめた。

「美智ちゃん…」
「…あ、あの、あの…」

おろおろする美智ちゃん。そしてすぐ、有無を言わせず強引に、しかし優しく抱きしめてあげる。全身が緊張するのが感じられ、逃げ出されてしまうか、どきり、としたが、すぐに、身体をふわ、とこちらに預けてくれた。

「…元気でね。また、戻ってくるから…」
「……陽一にい…」
「…もっと、素敵になって、出迎えてくれるよね?」
「…は、はい…」

自分でも赤面しそうなほどの‘お兄さん’を発揮して、言い切ってみた。…美智ちゃんの身体から緊張が完全に抜けて、安心しきっているのが感じられた。ほとんど背丈は変わらないけれど、大きな胸と、その素直な心のアンバランスさが、美智ちゃんの魅力なんだ…改めて、そんなことを、ふと考えてしまった。

にこにこする香さんの視線を感じながら、しばらく、そのままでいると、チェックイン時刻のアナウンスが聞こえてくる。肩にあずけた美智ちゃんのおでこをそっと離すと、そこに軽くキスをしてあげる。

「…あ…」
「…‘もっと素敵’だけじゃなくて、もっと‘大きく’もなってるかもね、美智ちゃんは…」
「えっ…?」 「じょーだん、です! じゃね、行ってきま〜す!」
「あ、あの…。き、気をつけて…」

一瞬あっけにとられたような顔から、〜真っ赤になってはいるが〜しばらく見なかった笑顔が、美智ちゃんに戻っていた。

「…陽一おにいちゃん…待ってるね!」

ゲートに入ってから見えなくなるまで、美智ちゃんは、いっしょうけんめい手を振っていた…。

‘計画’は、宙に浮いたままになった。



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