【おおきくなる、姉妹。】 このおはなしを、わたくしのサイトへ599,999ばんめにきてくださった、三山さんに、お贈りします。
げんあん:三山さん へぼなぶん。:WarzWars 2007.Mar.01 /05:30 ver.01公開
その、ご。
頭のてっぺんにものさしを置き、それを水平に保ったまま、壁に貼ったメジャーの方に伸ばす。
1m…69…。
一月半で、20cmも背が伸びた。
今はお母さんが遺してくれたものを着ている。…制服は、仕方がないので買い直した。それでも日に日にきゅうくつになっているような気がして、ちょっと心配だ。
鏡の中にいる私は、若い頃のお母さんの写真にそっくり。でも、私は、お母さんのような笑顔が、まだ作れない。
明るくて、元気で、誰にでもにこにこ、笑顔で接していた、お母さん。
…そんなお母さんの後ろで、いつもおどおどしていたのが、私だった。
今は無口が幸いして、周りは(妹のサチでさえ)私をいい意味で誤解してくれている。
でも私は、もっと‘違う自分’になってみたいと、いつも思っていた。
あのお店に通い始めて、ミルクセーキをごちそうになっている間、なぜか話してもいないのに、ナナミさんというひとは、私のそんな密かな願いに気づいてるみたい…とても不思議。
「ここデ、いっしょうけんメイ心に祈ってクダサイ…そうしたら、願いハかなうノデス…」
私の瞳をじっと見つめる、深い海の底みたいな、青い瞳…
吸い込まれそうなその色を思い出しながら、ぼんやりと想いにふけって家に戻っているとき。
急に、つないでいたサチの手に、力が入り…手のひらからかあっと熱が伝わってきた。
「?? サチ、どうしたの?」
「ん…。なんか、急に熱っぽくなって…」
彼女の前にしゃがみ込むと、額に手を当てる…熱い! 眼もうる、うるとして、焦点が合っていない。
次の瞬間、びくん! とサチの身体が震えた。
「サチ! サチ! だいじょうぶ?」
「…あ…ああん……」
私は彼女の両手を首にあてがうと、腰に手を回し、背中に乗せようとする。するとサチは、かくん、と膝から落ちかける。
お尻を支えていた手に力を入れると、その小柄な身体が、片腕だけで簡単に持ち上がった。
(…? サチ、こんなに軽かったっけ? )
また痙攣し、軽く声を上げるサチ。 …いけない、そんな場合じゃない。
私はサチをおぶって家を目指す。右に、左に、人混みを避けながらどんどん進んでいく。
「ああ…んんっ!…」
背中から、大きな吐息が漏れ…。
びくんっ!
背中におぶったサチの身体が大きく震えたとたん…
「…!…」
ずしり。
私は思わずサチを落としそうになる。
(…?! すごく重くなった! どうして?)
彼女の吐息が耳元に吹きつけてくる…さっきまで、ちょうどうなじのあたりにかかっていたのに…!?
「サキ姉…あはん…んんっ!」
「サチ、サチ! もうすこし、もうすこし我慢して!もうすぐ、家だから!」
耳元に妹の荒い吐息の音が。 …!
背中にずっしりと、のしかかってくる感触。
ちょうど肩甲骨の下辺りを、つん、つん、と刺激する、ふたつの柔らかな突起…
これは…
ここで、私はようやく、文字通りサチの‘身に’起きていることに気がついた。
「ん…しょっ!」
背負った最初のときより、もう倍近く重くなったように感じるサチの身体を、弾みをつけてもう一度しっかりと背負う。
その頃には、見慣れたマンションが、夕日の照り返しを受けているのが見えてきた…。
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