【おおきくなる、姉妹。】 このおはなしを、わたくしのサイトへ599,999ばんめにきてくださった、三山さんに、お贈りします。
げんあん:三山さん へぼなぶん。:WarzWars 2007.Mar.01 /05:30 ver.01公開
その、さん。
「ハーイ、ここデスね。」 と、その、ナナミさんという女性が立ち止まる。
“Growing Bar”と、おしゃれな文字で書かれたネオン看板。
そのまま、地下につづく階段を下りていくと、大きな扉があった。
ナナミさんは、その扉を開けて、私たちを待っていた。…でも、その青い瞳は、私にずっと注がれている…けれど、なんだかとっても暖かい…。
「サア、ワタシのお店・グローイング・バーへヨウコソ!」
にこにこしながら扉を押さえ、私たちを招き入れてくれる…サチを先に行かせ、その後に入っていく。
ナナミさんの横を通るとき、すこし前屈みになった大きな胸に、ぽよん、とぶつかる。見上げると、優しい微笑みを浮かんでいる、
「…ネ、あなたも、ナナミみたいに、こんなふうに大きく、なれマスネ。…信じて、ください…」
中は、4〜6人が座れるテーブル席が3つ、そしてカウンター席。…どれも、ふつうよりもずいぶん大きくつくられていて、お相撲さんかプロレスラーが常連客にいそうな、雰囲気。
まだ時間が早いせいか、お客さんはまったくいない。
扉を閉めたナナミさんが、いちばん近いテーブル席に私たちを座らせる。…こういうお店なら、曲げた膝が鋭角に立つくらいの、だいぶ低いソファのはずだけど、私にはふつうの椅子に座っているみたい。
隣に座ったサチなんか困っちゃって、ナナミさんにひょい、と抱えられて座らせてもらったのだけど、両脚が床に届かなくて、ぷらぷらしてる…
と、カウンターの奥から声が聞こえてきた。
「あれれ、ナナミ、ナナミなの? もう戻って来ちゃったんだ? まだ恵も来てないし、武史も買い出しから帰ってないのに…早かったね!」
「ハィ、ただいま帰りましたヨ、キョウコ。さっそくデスが、かわいいお客サンに、キョウコ自慢の、ミルクセーキを2つ、オネガイシマス!」
「え…なになに、もうお客様なの? …あら、いらっしゃいませ、グローイング・バーに、ようこそ!」
声のする方を見て、私は、これは夢じゃないか、と思ってしまった…。
と、つん、つん、と腕をつつく、隣りに座ってるサチ。視線をそちらに向けて耳を近づけると、こそ、こそ、とささやいてくる。
「あ、あのね…サキ姉。こ、これ、夢、夢だよね? だ、だってあたし、牛さんの耳と角が生えたひとが見えるんだもん…えっと、それで、牛さんみたいに、すごくおっきなオッパイで…。」
私にも、カウンター越しに現れたひとは、サチが言うとおりの姿に見えた。でも、牛ではない…とても魅力的な美しい顔立ちの、ただ、牛の耳と角を持った、女のひとだった。パティシエみたいな、白衣を着ている。
それにしても…ナナミさんくらい背が高い。それに、そのすごい大きさの胸元といったら。
そのひとはカウンターに肘をつくと、面白そうに私たちを見る…すると、3〜40cmは前に飛び出している白衣の胸元が、ずっしりとカウンターにのしかかり、その上からこぼれ落ちそうになる。
「…ね、夢だもの。ほら、ほっぺつねっても…い、いたっ!」
それを見て、ナナミさんと、カウンターの「キョウコ」と呼ばれたひとは、くすくすっ、と笑っている。
と、突然、牛みたいなすごく大きなバストの持ち主のひとが、はっ、と我にかえったように、ぱんっ! と手を叩いた。
「そうだ、“キョウコのミルクセーキ”を2つ、ってオーダーよね! はい、少々お待ちください!」
そう言って、背筋をのばすと、その大きな大きな胸元が、ばるん、ばるん、と大きくバウンドする…。そうして、私たちにウィンクをすると、また奥の方へ戻っていく…。
「フフフ…夢、じゃありませんネ。じゃ、ちょっと待っててクダサイ。」
そういうと、ナナミさんもカウンターの奥に入っていく。
驚きが続いたまま、サチとふたりでぼーっとしていると、カウンターの中から、ナナミさんとさっきのグラマーなひとの話し声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「あん……。さ、これで……。ところで……なの、へぇ……で、ナナミが…」
「…ソウなんデス…それで………。 …ちょっと、ワタシのも……ああン……ンフン…」
「え、違う? ……ふぁ…? な、なに? ナナミ、これ………あ、ああん…」
「……。……ハイ、あとは、これで……」
しばらくすると、頬をほんのり赤く染めて、ナナミさんが戻ってくる…大きなバストの前に、トレイを持って。
その上には、大きめのグラスと、ひとまわり小さなグラスが…その中は、泡立つ、クリーム色の液体で満たされている。
「ハぁイ、おまたセいたしまシタ〜! これがグローイング・バー自慢の、“キョウコのミルクセーキ”、ナナミのスペシャルフレーバー入り、デス!」
そう言いながら、ナナミさんは私たちの前にグラスを置く。
「…サアどうぞ。これを飲めば、あなたも、ワタシみたいに、なれるかも、ね…サキさん……ンフフ。」
おそるおそる、グラスを口に近づけ、こくん、と一口。
生クリームが入っているみたいに、とろん、とした口当たりで…ちょっとバニラが強くて…でも、おいしい。
私は、ゆっくりゆっくり、その味を噛みしめながら、飲んでいく。
隣りでも、サチが両手でグラスを持って、こく、こく、と喉を鳴らして飲んでいた。
お腹の辺りから、ふわふわした、暖かな感覚が全身に広がっていき、なんともいえない気分になる。手足の先に軽い、ひりひりしたしびれのような感じがしていた。
「…ナナミ…さん、この、ミルクセーキは…?」
「ハァイ、まずは、しっかり味わってクダサイ。 ミルク、苦手でなくて、よかったデス。」
ふたりが全部飲み終えると、ナナミさんが私とサチをじいっ、と見つめながら、ゆっくりと話しかけてくる。…その吸い込まれるような青い瞳から目が離せない。
「…サテ、サキさん、そしてサチさん…今日から、アナタたちモ、ワタシたちの仲間デスネ…。ただ、今回は、ナナミのスペシャルセーキですカラ、ちょっと違いマス。いいデスカ? よく聞いてネ。
これから、必ず一週間に一度、このお店に来てクダサイネ…そして、このミルクセーキを飲んでクダサイ…。お店は、ワタシとキョウコのことを思い出してくれれバ、必ずたどり着けマス…ソウ、“ナナミのグローイング・バー”って、アタマの中で唱えながら…ネ…」
その囁くような声を聞きながら、私は徐々に深い眠りに誘い込まれていく…
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「……ねぇ……、サ……姉っ…、ねえ……ったら…」
ぼんやりした頭が、少しずつはっきりしてきて、眼の焦点が合っていく。 ふ、と意識が耳に集まったかと思うと、サチの声が飛び込んできた。
「…サキ姉、だいじょうぶ? ね、サキ姉っ!」
「…あ、ごめん。サチ。」
「はぁ、よかった…。あたしもさっき目が覚めたばっかりだけど、そしたらサキ姉、もう眼が開いてるから、先に起きたのかな、って思ったら、どこ見てるのかわかんなくって…。」
その声を聞いているうちに、ぼんやりとしていた周りの風景が、私に近づいてくるようにくっきりと浮かび合ってきた。
…もう、朝になっていた。ひんやりとした空気。カラスが、ゴミの山に着陸して器用に包みをほどこうとしている。
「…すごくあせっちゃって、どうしよう、どうしよう、って…」
「心配させちゃって、ごめんね、サチ。…さ、帰ろう。」
「え? だって、今あたしたち、どこにいるか…」
「…うん。わかる。なぜかわからないけど。…きっと、すぐに、サチもわかるよ。」
「わ…かる…?」
「もう、あと少しで、玄関があるみたいな…そんな感じ。」
そういうと、ちょっと戸惑っているサチの手を取って、私は帰る方向に進んでいく。
サチの方を見ると、瞳の中になにかが宿り、きゅ、と私の手を握り返してくる。
また、ここには、戻ってくる…。
これから、私もサチも、ちょっとずつ、何かが変わっていく…きっと。
そんなことを考えながら、私たちは、ようやく動きはじめた、街の中に戻っていく。
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