<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


ティムとローラ、研究室で…



ティムとローラは、薄暗い大学の廊下を歩いていく。

…大学の受付では、スティーブの名前を出しただけで、すぐさま研究室に電話をつないでくれ、いともあっさりと構内に入ることができた。あらためて、スティーブの能力とその大学での信頼がいかに高いかを気付かされるできごとだった。

廊下には、同じようなロッカーとドアが並び、それ以外にも、段ボール箱や奇妙な機器などが積み重なって置かれている。ティムはドアの上に振ってある番号を数えながら、ゆっくりと歩を進めていった。

ローラは、少しこわがっているのか、ティムの手をぎゅっと握りしめ、それでも好奇心あふれる、きらきらした眼で周りを見まわしながら、とてとてとて…と、ティムの少し広い歩幅についていく。


「さあ、ここだ。」

ノックすると、その向こうからスティーブのくぐもった声がきこえてきた。

「…ティムか? …いいよ、カギはかかってない…」

研究室の中は、最新式のPCや、ラックに組み込まれたサーバシステムが壁際にずらりと並び、中央の実験テーブルには、ガラス管が複雑な形に組み合わさった実験器具や遠心分離器、フラスコやビーカーが立ち並ぶ。

「こっちだよ…」

立ち並ぶ実験器具の間から、声が聞こえた。ティムとローラが声のする方に歩いていくと、白衣を着たスティーブの、天井まで大きな筒がそびえ立つ巨大な装置にかがみ込んでいる姿が見えた。

その背中から、やや疲れてはいるが、とても真剣なスティーブの気持ちが、ティムに強く伝わってくる。…ティムは、彼が仕事を一段落するまで、辛抱強く待つことにした。
と、ぎゅっと、彼の手を握りしめる、やわらかな手の感触。つ、と視線を下げると、にっこりと微笑むローラがいた。彼女も、スティーブが元気でいることにほっとして、ティムを見上げている。

「…よし。やっぱり、だ。」

しばらくして、スティーブが確信した声でつぶやくと、ゆっくりとふたりの方に向き直る。

その表情には、はっきりした自信がうかがえた。

「スティーブ…。…わかったのか?」

「…ああ…。あれ? ローラ?」
「あ、ちょうどぼくといっしょだったんで…」
「あ…あの、スティーブ、からだ、だいじょうぶ?」
「ローラ、心配させてしまってごめんね。きみの願い事も、なんとかできそうだよ…」
「? 願い事?」
「あ…その、えっと、ちょっと…スティーブに、相談してたことがあって…」
「…そうか。ははっ…。ティム、ローラがいるけど、いいのかな?」
「あー。ええと、そ、そうだな…」
「それから、ローラ。ティムがいるんだけど、きみの相談を、ここでして、いいかい?」

スティーブを見ていた、ティムとローラは、一瞬きょとん? とした顔をして、そして、お互いに、お互いを不思議そうに見つめた。

( ティムなら、あたしの悩み、わかってくれるよね…でも、ちょっと…恥ずかしい… )
( そうか…ローラも、ぼくの妹には、困ってるしな…ぼくの願いも、わかってくれるかも、な… )

ローラは、ティムの瞳をじっと見つめると、少し顔を赤らめて、少しもじもじしていたが、ティムが自分を見つめている…。と、ティムが、にっこりと、笑顔を見せる。

その笑顔に、ローラは、さらにかぁっと顔が熱くなるのを感じ、同時に、胸の奥もぽおっ、と暖かいものに包まれていくのを感じた。

ティムが、こくり、とローラにうなづきかける。

それを見て、自分にいいきかせるようにうなづきを返すと、ローラはスティーブの方を見た。…すると、スティーブも、ティムとまったく同じような笑顔で、じっと彼女のことを見つめていた。

なにも言う必要はなかった…。ローラは、こくり、とうなづくだけでよかった。

スティーブはふたりにうなづくと、なにげなく、話を始めた。

「…うん。ティムも、ローラも、それぞれに、ぼくに相談ごとがあった、ってわけだね。…ティム、実は、彼女もきみと同じような相談をしてたのさ。」
「…え? そ、そうだったの? ほんと、ローラ?」

…ローラは、自分の‘お願い’を思い出し、真っ赤になってうつむいてしまう。
そのかわいらしいしぐさを見て、ティムも、もちろんスティーブも、またにっこりする。…なぜだか、ここに来て見せるローラの動作ひとつひとつが、ふたりには、とても愛おしく思えたのだ。

「…さて、それじゃ、ぼくが見つけたことを、整理して話すよ。まずは結論からだ。いいかい?」

そのスティーブの声に、ティムとローラは、あらためて彼の瞳をじっ、と見据えた。

「…まずは、GSの効果について。
…そこに含まれる‘成長促進因子’は、女性だけが持つ遺伝子の中に多く存在する、ということ。
…したがって、当然その因子は、女性のDNAの中にある、ということ。
…そして、〜スティーブ、これはキミには悪いんだけど〜、その因子は、女性に対してより強力に働く可能性が高いこと。
 …まぁ、こんなところかな。」

「ということは…つまり…」 ティムは、おそるおそる、たずねる。

「…うん。男性に対しての効果は、まず、女性への効果をきちんと検証してからでないと、ひじょうに中途半端にしか、効き目がないかもしれない、ってことなんだ。」

「……」

「ただ、すごく運のいいことに、今ぼくが持っているサンプルは、女性に対する効果が、おそらくこれまでのものよりもはるかに高いと思う。…ローラ?」

「…え、は、はい!」 とつぜん、自分の名前を呼ばれて、ローラはびっくりした。

「きみの…その、…サンプルから取り出した‘成長促進因子’のことだよ。…ぼくは、この因子から改良したGSを作った。…ここで、ふたりに相談なんだけど…」

また、ふたりは、同時に、こくり、とうなづきを返す。

「まず、ローラに、このGSの効き目を試してみたいんだけど、どうだろう?」


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