<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


ローラ、ためしてみる



「まず、ローラに、このGSの効き目を試してみたいんだけど、どうだろう?」

スティーブが、真剣な表情でティムとローラに話しかける。

まず、返事をしたのは、ティムのほうだった。

「…ああ。それが、ベストだと。…スティーブ、キミがそう思うんだったら。」

そういうと、ティムはローラを見おろして、しずかにうなづく。

「…そうか。…ローラ?」
「は、はい!」
「…まずは、きみの願いをかなえられる、かも…ってことになるんだけど…どう?」
「…あ…。」
「ただ、ほんの少し…そうだな、1〜2%くらいは、予想通りにいかないこともありうる、ってことは、科学者としては、いっておかないといけないけどね。それと、ティムには、彼女の結果を待ってもらってから、ってことになる。それも、けっこうな期間になりそうな気がする、ってことも、言っておくけど。」

そう言うスティーブを見ていたローラは、ふと、となりにいるティムのほうを見上げる。

ティムは、スティーブのいうことをじっと聞いていたが、ローラの気配を感じて、つ、と視線を動かす。
そこには、ローラの素直な瞳があった。ちっちゃな、ちっちゃなローラが、自分のことを見つめていた。

ティムは、ローラにうなづきかけると、きゃしゃでこわれてしまいそうなその肩に、そっと手をおいた。

あたたかい、そして大きなティムの手のひらのぬくもりを感じて、ローラは自分の気持ちにあらためて気がついた。
( そう…そうなんだ。わたしは、わたしのためだけじゃなくて、そう。ティムに… )

ティムのぬくもりにやさしい気持ちを感じ、顔の赤みと心臓の鼓動はさらに大きくなったように感じたが、ローラは、スティーブに、はっきりとした声で答えていた。

「はい、スティーブ。お願いします。わたし、GSを使ってみたい!」

その力強い返事に、スティーブも、うん、とうなづく。…と、ローラの表情の変化に、? となる。

ローラは、返事とは裏腹に、急にしおらしくなって、顔を真っ赤にして、自分にいいきかせるように、うん、うん、とうなづいて、つぶやいた。

「…あ、あの、あのね、スティーブ…その…ちょっと…」

ローラは、こくり、とティムにおじぎして、肩に置いてある手をそっとはずすと、ててててて…とスティーブに近づくと、思い切り背伸びして、スティーブの耳元でこそこそっ、と何か話しかける。

話し終えて、じっ、とスティーブの眼を見るローラ。…スティーブは、軽くウィンクすると、くい、と親指を立ててみせる。…すると、ローラの表情が、ぱあっと明るくなる。

「さて、それじゃ準備するか。…じゃ、ローラ、ティムとあそこのソファベッドで待っててくれる? …もちろん、ローラは前もって安静にしててもらわないと、ね。ティム、ローラのこと頼むよ。」
「はいっ!」
「…? あ、ああ。…で、さっきの、なに?」
「ああ、なんでもないなんでもない。…レディのことだよ。わかるだろ?」

スティーブはそう言い残して、実験装置の立ち並ぶ方へ向かっていく。

ティムはなんのことか、さっぱりわからず、頭上に大きな「?」マークを浮かべたまま、ローラに手を引かれ、研究室にある、応接コーナーらしきところに歩いていった。





1時間後。

研究室の片隅にあるソファベッドに、ローラは横になっていた。ティムは、その脇で、実験テーブルにあったスツールに腰掛け、彼女の手にそっと手を置いて、じっと待っていた。

そこに、スティーブが、注射器とガーゼを手にやってきた。

「さあ、ローラ、準備はいいかい?」  …ローラは、こくり、とうなづき、そっと眼をとじた。

「ちょっと、ちくっ、として、痛いかも知れないけど、がまんしてね…ごめん、ティム、そこ、代わってくれるかな?」

ローラの手からティムのぬくもりが消えると、こと、こと、と、ティムとスティーブが席を替わっている音がした。
そして、そっと、とてもやさしい手つきで左腕を持ち上げられ、その肘の裏側をガーゼでこすられる感触。

「これでも、注射の腕前は、医師免状をもってる母にベタぼめされるくらいだから、安心して…そう、力をできるだけ抜いてくれるかな? それじゃ、いくよ…」

ちくり。

一瞬、痛みを感じた後は、まったくなんの感触もなかった…と、肘の辺りからゆっくり、ひんやりした感覚が左腕全体に広がっていく。

1分ほど、経っただろうか。 …こんどは、からだ全体が、ほんわりと、暖かくなったような気がしてきた。
「さて、終わったよ、ローラ」という声が聞こえるのと同時に、肘の裏側の違和感がなくなっていく。

「…どう? 気分は…なにか、変わったことがあったら、なんでもいいから、言ってくれる?」
「あ…あの、ちょっと、からだが、ほかほかしてきたような気がして…」
「…何か、気分が悪くなってきた、とか、めまいがする、とか、そういったことは?」
「いいえ、それは…うん、だいじょぶです…」

ゆっくりと眼を開けると、心配そうにローラをのぞき込む、スティーブとティムの顔があった。

「よし、念のため、しばらく横になったままでいてくれるかな? ティム、ローラのこと、よく見てて。ぼくはちょっと後かたづけをしてくるから…」

そういうと、スティーブはローラの手をきゅっ、と握ってから、そのままその手をティムの手に重ねると、スツールから立ち上がり、実験器具の立ち並ぶテーブルの方に歩き出した。

ティムは、ローラのそばにスツールを引き寄せると、もう一方の手も取って、優しく、まるで宝石を扱うように自分の手でローラの手を包み込んだ。

「……」  ふたたび、そっと眼を閉じる、ローラ。

とくん、とくん、とくん、とくん…。

耳に響いているのは、自分の心臓の鼓動だけ。

ローラは、自分の心臓の動きに合わせて、包み込まれた小さな手を通して、まるでティムのいたわりの気持ちが伝わってくるような感じがしていた。…それは、なんともいえない、不思議な、そして、心からゆったりとした暖かい気分だった。

GSのせいで、ほかほかしていた身体が、さらにふうわりとした、雲のクッションのようなものに包み込まれていく。

( …まるで、柔らかな、羽毛のようなおふとんの中に、いるみたい… )

そのまま、だんだん意識が遠く、遠く…。






「…ん…あふ……ふわぁ…。」

「…お、おはようございます、姫君。 …スティーブ、姫が、お目覚めだよ!」
「……?…」

ぼんやりとした、視界が開けてくると、にこにこと微笑むティムの顔ごしに、白い蛍光灯の明かりとクリーム色の天井が見えてくる。…と、そこに、スティーブの顔が加わった。

「ふむ、今回のGSには、即効性はないみたいだ。でも、精神安定作用があるのかな。…ちょっとした睡眠薬よりも効き目があるよ、これは。」

その声に、ほわ〜んとした意識のピントが、すうっ、と一点に集まってくる。…えっと、ここは…わたしは…。あ!!!!

次の瞬間、驚くべき素早さで、ローラはソファベッドから上半身を跳ね上げた。

「わぁ、びっくりした! …ローラ姫、そのようにあわてずとも、だいじょうぶですよ。…あ、それから、もう手はお放しいただいても、よろしいですか?」

くすくす笑いながら、やさしく話しかけるティム。その後ろには、同じようににこにこと笑顔を見せる、スティーブがいた。

ふと視線を下げるローラ。次の瞬間、まるで漫画のように、首の付け根から頭に向かって、一気に血液がきゅーんと駆け上っていく。

ローラは、ティムの両手を握りしめ、それをちっちゃな自分の胸元にしっかりと押しつけていたのだ。

「…!! あ、あのその、その…その、あわ、あわわわわ…」

ばたばたっ、とティムの手を放すと、あわてて自分の顔を両手で隠して、自分の視界からふたりの姿を隠す。

「うん、それだけ元気があれば、だいじょぶだね、ローラ。」 と、スティーブ。
「ふむふむ。御典医どののお墨付きもいただいたことですし、そろそろおいとまいたしませんかね、姫?」 ティムは、まだくすくすと笑いながら、そう呼びかける。
「…ああん、は、恥ずかしいよぉ〜」

そう言った瞬間、さいしょにティムが、続いてすぐにスティーブの笑いが爆発した。…そして、あまりにもおかしそうな二人につられ、とうとうローラも笑い出してしまう。

ひとしきり笑った後、スティーブがいくつかの宿題をローラに与えた。

ひとつ。明日から1週間ごとに、身長と体重を測ること。
ひとつ。身長と体重の記録とともに、体調の変化について日記をつけること。
ひとつ。不快感やふだんと違った高揚感など、何か少しでも気付いたことがあったら知らせること。
「…まぁ、同じクラスだし、何かあればこっちから声をかけるから、心配しないで。」

そして、3人は研究室を後にした。

…改良版GSの効果。それがどれだけのものかは、スティーブの分析力にかかっていた。

しかし、今回のサンプルがローラの姉のものだということが、彼の分析の‘誤差範囲’かどうかは、誰にも、わからないことだった…。

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