<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。
【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )
ティム、電話をとる
…ティムの妹は、学校の中で、名実共に“女王”となっていた…。じっさい、兄が参加しているアメフトチームの、身長180cm以上の屈強な男たちをはじめ、どの運動クラブのたくましい男は、彼女のとりこになっていた。
…彼女といっしょに歩くことができさえすれば、どぶさらいだってやってしまう…そんな男はごろごろしていた。
しかし、どん欲なリナはそんなことでは少しも満足していなかった…。
( …もっと、もっと大きくなれさえすれば…。
そしたら、中学1年生のうちに、高校にいる“モリィ・マウンテンズ”なんか
ただのちっぽけな、かわいい女の子になっちゃうはず… )
そして、それを実現できるのは…もちろん、ひとりしかいなかった…
リックの家で、ローラと他愛のない話をする…最初にふたりきりで留守番をしたときには、とてもそんなことが自分にできるとは思えなかったことを、ごく自然にできるようになっていた…ティム自身、内心驚いていた。
しかし、飾り気のない、自分を慕うローラの気持ちには、少なくとも真摯に答えなければいけない…そう、ティムは思っていた。
それを知って知らずか、今日もまたローラはにこにこと微笑み、うれしそうにティムの隣に腰掛け、子猫がじゃれるかのように無邪気にティムに寄りかかって、いろんなできごとをどんどんティムに話しかけている…。
暖かい日差しをうけるサンテラス。はじめての留守番のときのように、話をしているうちに、少しずつローラはまぶたが重くなり…とうとう、こっくり、こっくりと眠りにおちてしまっていた…。
と、そのとき電話が鳴った…たぶん、居残りさせられていた、リックからだ。
そんなことを思いながら、ティムは近くに置かれたコードレスフォンをとった。
「…あー、もしもし? こちらステンパーです…」
「…ティム、だね? …スティーブだ…やっぱり、ここか…。…やっと、わかったんだ…」
「スティ、スティーブか? …なんだか、すごく疲れてるみたいだ…大丈夫か?」
「……」
「おい、スティーブ! 大丈夫?」
「…ああ…ごめん、ちょっと…しばらく眠っていなかったんで…。でも、もう解決だよ…GS
の因子が…」
「お、オッケー、わかったよ、ここで説明されても…い、今からそっちへ行くよ、いいかな?」
「…ああ…父の研究室に…少し眠るよ…内線は4520…受付から、電話して、起こしてくれる…?」
「わ、わかった…気をつけて!」
受話器を置くと、ローラがすっかり目を覚まし、まさに子猫がちょっとした獲物を見つけたかのように、ティムの顔をじっ、と見つめていた。
「あの…今の、スティーブ?」 ティムは、どきり、とした…なにか、知ってるのか、ローラは?
「あ、ああ…なんとか、水ぼうそうは治ったみたいだね…あ、代われば、よかったかな?」
「ううん、…だって、これから行くんでしょう? あの…いっしょについて行っても、いいですか? …いつも勉強とかで、すごくお世話になってるから…」
…そうだ、スティはローラのクラスメートだったんだ…。…まずいな。どうしよう…。
きらきらした、いたずらっぽい、しかしとても真剣な、まなざし…。そんな眼でじっと見つめられると、ティムはうそをつき通すことができそうにないことに気がついた…
しかたが…ない。
どのみち、GSに関することは、ローラにとってはいつもの科学好きのスティーブの趣味の話にしか思えないだろう…し、な。
それなら、連れて行っても、問題はないはずだ…
そう、考えを巡らしたのはあっという間だったので、ローラにとっては、ティムの「じゃ、行こうか」という答えはすぐ、返ってきた。
実は、ローラの方も、なんとなくではあるが、スティーブの研究の進み具合が気になっていた。…しかし、それよりもまず、スティーブの病気のようすが気になる。
( だいじょぶかな、スティーブ… )
ティムについていけば、彼の状態もわかるし、もしチャンスがあれば、ティムには申し訳ないけれど、あの‘おっきくなる薬’の進み具合を聞き出すことも、できるかもしれない…。
…ふたりとも、まったく同じ目的にもかかわらず、‘ないしょ’の話を持っていて、しかし、そのことをお互いに知らなかった。
玄関から出ていくティム。振り返ると、とててて…とローラが小走りについてきた。身長差40センチの「かわいいモップ」が何気なく彼の手に両腕でつかまってくる…女の子らしい、柔らかく清潔な感触に、不思議と心が安らぐ気がしながら、ティムはスティーブの大学に向かった。