<ほんあんです>+ほとんど、そうさくにちかくなってきました…。
【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )
スティーブの、疑問
ティムは、スティーブを見つけだそうと必死だった。…飛び級も含めるとかなり複雑なシフトの授業を組んでいるので、いつも朝一番で来て、その日の準備をまとめてするのが、彼の日課だったからだ。
しかし、教室という教室を回っても、スティーブは学校にいなかった。そうするうちに、予鈴が鳴った。…へたをすると妹と鉢合わせ。そいつはごめんだ。…仕方なく、ティムは教室に戻った。
…1時間目が終わった。
勇気を奮い起こし、ティムがスティーブの教室〜つまり、それは妹も、そしてローラがいる教室、ということだ〜に向かう。なぜか、落ち着きのないざわめきが体育館のほうに移動していた。
そしてかの教室から、おびえたような表情で先生とアシスタントが出てくる。その会話から、妹の姿がどんな事態を引き起こしているのかがよくわかった。…あのざわめきは、たぶん次が体育で、更衣室に向かった妹が騒ぎを広げている証拠だ。
彼がスティーブのことを尋ねると、呆然とした2人から聞き出せたのは、どうやら彼が一日欠席になった、ということだった。
じつはスティーブは、ティムの妹・リナとの研究室の出来事で完全に消耗しきっていて、ベッドから出ることさえできていなかった。
それを知らないティムは、最悪の事態を恐れ、授業をすっぽかしてスティーブの家に向かった。
スティーブの両親は共働き。しかも研究者という職業柄、帰るのも不規則だ。
そんなわけで、彼は家で一人きりだった。。
ティムは、ベッドに腰掛ける彼の無事〜疲れ果てていたとしても、そう言えるのかどうかは脇に置いて〜に、ほっとしたとたん、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
「いったいぜんたい、どうしたんだい!? キミのせいだろ?! …妹は…もともとが‘ガキ大将’だったんだぞ! 今じゃあいつは‘どでかいガキ大将’さまだ! …ああもう、ありがたいことで! ぼくはいったいどうすりゃいいんだよ? ぼくたちだってそうだ! どうする? …どうすればいい?」
「ぼ、ぼ、ボクだって、彼女があんなに大きくなるなんて思ってなかったんだ…」
「やっぱり、そうか。 で、なにがあった?」
「わからないんだ! 彼女が自分の血液のサンプルをボクにくれて、ボクは彼女の体重がどれくらいか聞いた。それで次にわかってるのは…薬を飲んで…彼女がでっかくなってたんだよ! ボクの計算に基づけば…きみの妹はあんなに大きくなるはずがないんだ! 彼女はぜったい、ボクらの誰よりも大きくなるなんてことは、決してないはずなんだ!」
「血…液? キミの、薬には、血液が、必要なのか?」
「…あ、うん、そ、そうか…君たちには、あんまり詳しく言ってなかったね。そうなんだ。ボクが改良したGSは、その人の血液の中から成長因子を取りだして、その機能を増幅させるんだ…」
ティムとスティーブは座り込み、次善の策をじっくり考え、次にどうするかを決めようとした。
ある考えが、ティムの頭にひらめいた。
「ところで…いったいぜんたい、君は彼女の血液をどうやって手に入れたんだい? 彼女は死ぬほど針をこわがるし、おまけに、血管だってぜんぜん見えないだろ?」
「し、知らないよ。でも彼女は持ってきたよ。ボクたちがパパの研究室に着くときには、もうサンプルを持ってたんだ! ナ、ナプキンを…」
それがきっかけで、きのうのできごとを思い出し、顔を赤らめてしまう。
しかし、ティムは、別のことを考えていた。
「…おかしいな。スティーブ、思い出してくれ。…いったい、どうやって君はそれが彼女の血液だって事を知ったんだい?」
「…え? だ、だってその…ナ、ナプキン、だよ? その…女の子の…」
「あいつのは、たしか…先週はじめに終わってる…それが元で1週間の外出禁止を食らったんだから、よく覚えてる。…持ってきたのが、ナプキンでも、血液があいつのであるはずが、ない。」
スティーブは、そのことを確認をしていなかったことに気がついた。…それじゃ、誰の?
…血液型は同じ、だった。成長因子に関連するDNAも、彼女がちゃんと〜予測した以上に〜成長したことから、一致していたことは確かだ。…わからない。だが、なにかが、おかしい。
そんなスティーブの困惑をよそに、ティムは、スティーブに頼み込む。
「…わかった。と、とにかく、そのGSをぼくにも作ってくれないか? …そうすれば、これ以上あいつに怯えずに済む。それに…」(大きくなれば、モリィにも…)
その後のせりふを飲み込んで、スティーブに迫る。…しかし、スティーブは、一人物思いにふけっている。
「…そ、それが無理なら、せめて、逆GSみたいなものを作ってくれよ? な、スティーブ?」
必死になって頼むティム。…しかし、スティーブは、自分の考えの中にどんどん沈んでいく。…こうなると、もう誰にも止められないことは、付き合いの長いティムがいちばんよく知っていた。
「…血液を、くれないかな、ティム? ほんの少しでいいんだ…」
「え、じゃ、じゃあ、やってくれるのか?」
「…うん、ちょっと確かめたいことが、あるんだ。少し時間をくれる?」
視線も合わせず、そうつぶやくスティーブ。…ティムは、これから家で始まる、自分の恐怖の日々のことを思うと、背筋が寒くなっていた。が、この天才肌の少年がなにかを始めようと決意したときには、誰もそれを止められないこともよく知っていた。
ティムは、意を決したように立ち上がると、まだなにか考えにふけるスティーブに向かって言った。
「…わかったよ。えーと…ガーゼをくれないか? カッターは、どこ?」