<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ティム、大混乱



「ねぇ、ティム。きょうの留守番、どうだった? ローラは? あなた、どう思った?」

‘モリィ・マウンテンズ’の、唐突なその質問にびっくりしたティムは、しばらく、頭の中が真っ白になってしまった。

それすらも楽しんでいるかのように、モリィは、うれしそうに胸の前で手を組んで、好奇心でその美しい瞳を輝かし、身体を揺らしながらティムの答えを待っている。
手を組んだため、両腕が胸元を押さえつけ、セーターのとてつもない大きさの膨らみがエッチな形にふんにゃりとゆがみ、こぼれ落ちそうになりながら揺さぶられている…。

....呆然としてモリィの顔の数十センチ手前を泳いでいたティムの視線がそのゆっさ、ゆっさ、と弾む胸元に戻ってきたら、なぜか、ティムは、はっと我に返り、自分のペースを取り戻した。

「いや、その、…楽しかったよ。さっき、言ったよね?」
「うんうん、.....で、ローラは? どう? あなたから見て?」
「あ、ああ、それも言わなかったっけ? すごく素直で優しい、とってもいい娘だよ。う、うん、…かわいかった、そ、そう。かわいかった。」
「ごめん、もうちょっと聞いてもいい? どこが‘かわいかった’の?」
「? え、いや、どこって…。 その、ええと、あの、うん。 ・・・・あ、頭いいよね、彼女? ぼくってあんまり話うまくないじゃない? でも、ちゃんと聞いてくれて、そう、話しやすいんだ。そこはモリィ譲りかな? …でも、ちゃんと自分のことも言ってくれるから、ぼくも彼女のことがわかるし…。そ、そう、だから、楽しかったんだよ。」
「・・・ふむふむ。さすがね、ティム。実はそこがローラのいちばんイイとこだって、あたしも思ってるけど。…で、ごめんね、ティム。あたしはどこが‘かわいかった’か、聞いてるんだけど、…そこんとこ、どう?」

20センチ近い身長差を、ここぞとばかりに利用して、モリィはティムを塀に押しつけるかのように真正面からぐい、と全身で迫ってくる。そうすると、また、ティムの眼の前に、ぐいん、とでっかいセーターの膨らみも迫ってくる。…思わず目をそらす、ティム。

「…え・え、は?」
「いや、だって、‘かわいかった’って、さっき2回も言ったじゃない?」

…最近はじめた、っていう新聞部の活動のせいか? …無意識にだが、その話からうまく逃げようとしていたティムだったが、昔から得意分野だった‘モリィ姉の尋問’にも磨きがかかっていて、とても逃げられそうにない。。
その上、口調はあくまでもソフトだが、答えないわけにはいかない、不思議な気分にさせる何かが、モリィの言葉にはあった。

「あ、そ、そうだっけ? いや…その…どこって、ええと・・・・」

ティムの脳裏に、楽しい会話のあとの、リビングでの出来事が次々に浮かび上がる。

 −−−うれしそうに、ソファの隣でちょこん、と座る、子猫のようなローラ。
 −−−ひざの上で、頭を撫でてあげたときの、さらさらの髪の感触とすてきな香り。
 −−−抱っこされて、ちょっと上気した頬と、安心しきった表情。
 −−−腕の中ですやすや眠る純真無垢な寝顔。おでこへのキス。

…思いだしていくうちに、ティムは顔がみるみる赤くなっていくのを抑えることができなかった。でも、やっぱり、話せない。

「・・・・そ、そりゃ、なんたって街に名高い‘ステンパー家の美人姉妹’だしさ、そ、そう、モリィとは違って、まだちっちゃくって、子どもっぽいけど、うん、なんていうか、…その、・・・かわいかった。」

言葉よりも、真っ赤っかのティムの顔を見て、モリィはなぜか、うんうん、と深く頷いていた。

「ふ〜ん。なるほど。そう、お気に召していただいた、ようですね、ランスロット様。」  …わけもわからずに、こくりとうなづく、ティム。
「・・・・あのね、ティム?」
「え? な、なに?」
「…ねぇ、あなた、ローラとつきあってみる気、ない?」

またまた、モリィの‘爆弾’がティムを直撃してきた。

「…え? え? ええっ?」

「えい、ティムだから、この際、いいや、言っちゃおう…あのね、ティム……ローラはね、前からあなたのことが好きだったのね。」
「…?? は? はい?」
「でね、きょうのことはまったくの偶然なんだけど、あたし、母さんを迎えに出るとき、ローラに『二人きりにしてあげるから、がんばって!』なんて言っちゃたの。…だから、まぁその、奥手のローラにしては、たぶん、すんごく“がんばっちゃった”んじゃないかな〜って。」
「・・・・はぁ。」
「で、その、あたしはちょっと心配だったんだけど、戻ってきたら、ティムもなんだかいい感じになってたから…。でも、帰りがけ、あのローラが…ねぇ。あんな積極的なローラ、初めて。ティムも、びっくりしたでしょうけど…。で、まぁ、その…キミの意見も聞いときたいな、って。」

ちょっと、照れながら話す、モリィの口調は、いちばん下の妹のことを心配する、姉としての暖かい想いやりに満ちていた。
ふ、とティムが顔を上げると、モリィの遠くを見つめる顔は、月の光に照らされて、美しさを一段と引き立たせていた。…ティムは、それを見て、なぜか、彼女が、とても遠い存在に感じられた。

「…あなたなら、外見だけじゃなくって、ローラのいいところをちゃんと見てくれてるし、ローラは、ごらんの通りだから…すてきなステディになるんじゃないかな〜…なんて、これは、あたしの勝手な意見。」
ティムは、なんと答えていいか、わからず、黙ったままモリィの話を聞いていた。話す言葉のひとこと、ひとことはしっかりと耳に入ってくる。…しかし、そのことについて、自分は、これからどうしたらいいのか…。頭の中は大嵐が吹き荒れていた。

「…ごめんね、突然、こんな話。 でも、もう、こうなっちゃったから、ティム、お願い。少なくとも、ローラ=ステンパーっていう女の子が、キミのことを想っていて、いっしょうけんめいなんだ、ってことだけは忘れないでくれると、うれしいな…。」

「・・・・」

       ティムは、なにも言えなくなってしまう。


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