<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 留守番係? それとも白馬の騎士?



1時間半ほど、ティムはローラの安らかな寝顔を堪能した。…というのも、思いの外、リックたちが帰ってくるのが遅かったからだ。しかし、安心し、信頼しきって眠りにつくローラは、何時間見ても幸せな気分でいられる…。

ドアが開き、大きな荷物を抱えてリック、モリィ、ミズ・ステンパーがリビングに入ってきて、買い物や車の故障や‘おしゃべり飛行船ママ’のことを口々に話してるところから、時間の流れが急に変わったような気がした。
ローラが目を覚まし、モリィのディナー、そして留守番への‘お礼’に当たる特製のデザートから、その後のリックの自慢話まで、ステンパー家を出るまでの時間は、ティムにとって瞬く間のできごとのように感じられた。

「それじゃ、ぼく、そろそろ…」
「おう、助かったよ、サンキュ、ティム。」 と、リック。
「ごめんなさい、ローラを押しつけちゃったみたいになって。ありがとね〜!」「手が離せなくてごめんなさい、ティム、エミーによろしくね! リィック! あなたも手伝いなさい!」
…と、これはキッチンで洗い物をするモリィと、ミズ・ステンパーの声だ。

立ち上がり、玄関に向かうティムに、キッチンから出てきたローラがとてとてとて…とついてくる。

「やぁ、ローラ。本日のわたくしのエスコート、お気に召しましたでしょうか? 姫君? 」 …ティムはおどけて、ひざまづくと、深々とお辞儀をする。

「あ....ありがとう、ティム..さん」 しかしローラは、冗談を返すゆとりもなく、真っ赤になって、小さな声でつぶやく。

「おお、恐縮至極。ティムと呼び捨てでけっこうです、姫。…ま、冗談はこれくらいで。ローラ、ぼくもとっても楽しかったよ。こっちこそ、ありがとう。…また、いつでもお招きください。いや、いつか、わたくしのあづま家でもよろしければ、ぜひとも…ね!」

 ひざまづいたまま、ローラの手を取り、ふざけて手の甲にキスをするティム。冗談ぽい口調は続いてはいたが、しかし、眼の前の女の子に捧げたのは、心からの感謝と好意を示す言葉だった。

深く下げた頭を上げると、眼の前にローラの真っ赤っかの顔があった。と、目をつぶったまま、ローラの顔が、ふ、とアップになったかと思うと、ティムの唇に、ふわ、と柔らかい女の子の唇の感触が重なる。

   「....!?....」

あっと思う間もなく、両方の頬にもキスをして、ローラは、見送りに出てきたときの倍以上のスピードで、家の奥へ消えていく。…それと入れ替わるように、エプロンをしたモリィがにこにこして近づいてきた。

「あら、あら。…なんだか、留守番係、っていうより、白い白馬の騎士、って感じ? …ね、あたしたちがいない間、いったいナニしてたのよ、ティ〜ム?」

「え? いや、あの、その…な、なに、って…はい? え?」  今度は、ローラどころではなく、しどろもどろになるティム。

「おかーさん、ちょっとティムを角まで送ってくるね〜! …はい、はい、お・つ・か・れ・様。」

 呆然と立ち上がったティムを、ひょい、とドアに向かって反転させると、その背中をぐいぐい押して、モリィはいっしょに外へ出て行く。

「お聞かせください、ランスロット様…。いったいどのようにして、あの、お転婆娘と名高いローラ姫を、あのような貞淑なる乙女になさったのですか?」

何がなんだかわからないまま、背中を押され、ロボットのようにぎこちなく歩くティム。その頭上から、モリィのいたずらっぽい声が、くすくすと含み笑いとともに、降り注いでくる。

「? ? …え? い、いや、別に…ぼくは…なにも.....」  いまのティムに、冗談を言える余裕はまったくなくなっていた。

「んもう、殿方はいつも…肝心のところで誤魔化すのです。さ、このモリィに、お・聞・か・せ・くださいまし…。レディが、忠誠を誓う騎士の、頬ではなく、く・ち・び・るに、おのが唇を重ねるなど、まずありうるべからざること。な・に・か・特段の事情が…」

ティムは、モリィのからかいの声が遠くなり、それより、じょじょに別のことに気をとられはじめていた。

それは、背中に押しつけられた‘モリィ・マウンテンズ’の、そう、文字通り双つそびえる‘柔らかな山脈’だった。
肩胛骨のあたりを中心に、洋服ごしとはいえ、そのすさまじいボリュームが、まるで背中全体を包み込むかのように、ぴったりと密着していた。
それを、からかい口調の最後には、単語を区切りながら強調するのに合わせ、ぐい、ぐい、と押しつけてくる。…明らかに、モリィは意識してそれをやっているのだ。…これはこれで、ある意味、別の‘いじわる’でもあった。

しかし、その感触で、ティムは、かつて‘幼なじみ’だったモリィとの会話や、ついこの前リックがグラマラスな姉について話してくれたことを、鮮やかに思い出していった…。



<Graphs-Topへ>  <<もくじへ  <もどる  つづく>