<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ふしぎな、気持ち



「えと…あたしを、あの、抱っこ…して…くだ…さい」

 うつむいた顔を上げて、恥ずかしそうに、上目遣いで、ローラはもう一度そう言った。今度は、さすがのティムもはっきりと聞こえた。

(え、えええ〜っ!) 今度は、ティムのほうが、真っ赤になる番だった。

たしかに、ベビーシッターなら、あたりまえの‘仕事’ではある。しかし、いくら‘お遊び’とはいっても、相手は中学生。さすがにちょっとはずかしい、というか、ティムにしてみれば、ちょっとばかばかしい気がした。
ティムは身長162cm、それに比べたら40センチも低い、「ちっちゃなモップ」のローラを抱きかかえるのは、体力的にはまったく問題ない。…しかし、‘抱っこ’する、というのは…。

ティムの心の中にあるなにかの‘境界線’を越えているような気がして、一瞬、「いや、それは…」という言葉がのどから出かかる。

そのとき、ついさっきの、他愛のない話であれだけ自分のことを楽しませてくれたローラの笑顔が思い浮かぶ。
そのときに見せる、背伸びがちな大人びた仕草とは裏腹の、どぎまぎする今のローラとの不思議なギャップに、思わず笑みが浮かんできた。

(…中学生といっても、やっぱり、まだまだおコちゃまなんだな。ま、もう少しつきあってあげてもいいか…)

それに、さすがに兄リックがいうだけあって、いま隣でもじもじしているローラは、まさに赤ちゃんのように‘ちっちゃくてかわいい’。

(ヘンテコな、というか、奇妙きてれつ、かな? …ちょっと、ローラのペースに、はまってるような気もするけど…。)


ティムはまず、ローラを自分の膝のうえに乗せると、ローラは黙って、そっ、とティムの胸に頭をあずけてくる。

「ええと、…これで、いいかな?」
「あ、ありがとう…。」 ローラが、ぽつり、とつぶやく。

無意識に、ティムはローラの頭を優しくなでてあげる。ボーイッシュなショートカットだが、その髪のさらさらとした感触が心地よい。

ティムは自分の胸に当たるローラのほっぺたと、髪の毛から立ちのぼる少女の香りに、なぜかどきどきしはじめた。
それと同時に、ティムのお腹のあたりに、ちっちゃな、ローラの胸のふくらみがしっかり押しつけられているのを感じる。

…その先が、ぴく、ぴくと、硬くなっていた。…ティムはびっくりした。

(! …ローラ…。....気持ちよくなってる? え?‘抱っこ’って、そういうもんなの?)

ふと見下ろすと、ティムを見上げるローラと目が合った。…うっすらと半分閉じた瞳がうるんでいる。唇が、やや開きかげんになり、浅い吐息が漏れる…それが、とてもエッチな表情に見えた。


「…ティム、あの…立って…あの、その…あ…あたしを、もっと、ぎゅって…その……」

そのとき、サイドテーブルに置いてあったコードレスホンが鳴った。
あわてて、ローラを抱きかかえたまま、電話を取る。

…その動きで、自然とティムはローラを横抱きにしたまま立ち上がってしまう。ローラも、落ちないようにティムの首にしがみつく。ただでさえくっついていた2人の体が、さらにぴったりと密着することになった。

「え、えーと、ステンパー…ですが。」  ローラをあまりにも軽々と持ち上げたことに自分でも驚きながら、ティムはどぎまぎと返事をする。

(あら、ティム? どう、ローラは? おとなしくあなたの言うこと聞いてるかしら?) …モリィの声だ。
「え、あ、は、はい、だいじょぶ、です。」 ティムはそう言うのが精一杯だ。
(そう、よかった。…あのね、母さんの車、なんとか動かせるようになったの。…リック、あとどのくらい? …そう。あと1時間もすれば、そっちに戻れそう。ごめんなさいね、ティム、ありがと。今晩はあたしの手料理をごちそうするわ、あなたのご両親には電話しておくから。)

モリィの手料理! ティムは一瞬、腕の中のローラを忘れて、自らの幸運に感謝した。

モリィとひとしきり会話し、リックのちょいと長い苦労話を聞き流し、ミズ・ステンパーのおわびの言葉に夢中で返事をして、受話器を置いてから、ふと気が付く。

ティムはローラを優しく抱きかかえ、文字通りゆりかごのように、ゆっくりと彼女の体を揺すり続けていた。
ローラも、ティムの腕の中に包まれて、うっとりとした表情で目を閉じている。…彼女は、満足そうな寝息をたてて、すっかり眠りに入っていた。

その純真無垢な笑顔は、ティムが今まで見たこともない魅力と美しさをたたえていた。

…そこで、ティムは、はじめて、この「ちっちゃなモップ」のことが好きになったことに気がついた…。

ティムは、その愛らしいおでこに、思わずキスをしてしまう。

「う…うん…」 …どんな夢を見ているのか、ティムの肩に乗せた頭を、甘えるかのようにこすりつけてくる。

....それが、なぜかティムの心に、また、不思議な安らぎの気持ちを与えてくれる…。

そっとソファに寝かせ、リックたちが帰ってくるまで、すやすやと寝息を立てるローラを飽きることなく見つめ続けていた。


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