<ほんあんです>+ようやく+そうさくいり。

【お隣のちっちゃな妹】 ( げんさく:は、某外国の方です。 )


 ローラと、ふたりきり



リックの妹のローラは、兄の(つまり、ティムの)3つ年下の12歳、中学1年生になったばかりだった。

‘ステンパー家の美人姉妹’というのは、もっぱら姉のモリィ〜または、ときどき姉妹に間違われる、母親のミズ・ステンパーとの2人〜のことを言うのだが、しかし、6歳違いというのを差し引いても、その言葉に間違いはなかった。

じっさい、ローラもかなり美しい顔立ちの少女だった。......ただし、12歳、という年齢では、それは‘美しい’というよりも、むしろ‘かわいらしい’とか‘愛らしい’といったほうが正しいだろう。

ただ、今のローラくらいの歳のころ、モリィが今のグラマーな体の成長の芽生えがあったのに比べ、ローラはまだまだ‘美女’というにはほど遠かった。
その大きな要因は、その、身長にあった。

…ローラはクラスの中で一番背が低かった。それだけでなく、2番目にもかなり差をつけての、トップだった。それも、ワーストの。

…身長122cm。

リックがつけたあだ名が、「ちっちゃな・かわいいモップ」"TMM"〜"The Mini Mop"。それが、背丈だけでなく、ローラがいちばん気にしている、体型のことも表しているのは、本人が一番わかっていた。

中学時代に、そのバストの大きさで‘モリィ・マウンズ’とあだ名がついていたモリィ姉さんとは大違い。…それでも、ステンパー家の明るく、優しい性格には変わりなく、クラスでは人気者だった。
むしろ、そのちっちゃい体型が女の子のクラスメートに可愛がられるほどだったのだが、本人はあまり子ども扱いされたくなかった。

ただ一人、あこがれの人を除いては…。





そしていま、ローラはその‘あこがれの人’を眼の前にして、二人きりで向かい合っていた。…しかも、自分の家で。

(ああ、神よ、感謝します! 母さんの車が故障するなんて…)

ローラの浮き浮きした姿を見て、そんな心の中などまったく気がつかないティムは正直、とまどっていた。

ティムにも妹はいた。確か、ローラと同い歳・同じクラス。…いじわるで、きつくて、こまっしゃくれた‘ガキ’だ。そういうコドモの扱いはお手のもの。

…しかし。

ローラはその正反対で、おしとやかで、キュートで、かわいい。…そんなコだと、かえってティムは、姉のモリィとはまた違った意味で、どうしていいのかわからず、困ってしまうのだった。

だから、リックが「ま、妹を頼むな、ティム。おい、ローラ、ティムを困らせるなよ」と言ったとたん、ローラが「やったぁ!」と抱きついてきたとき、ティムは、モリィの胸の谷間を見たときと同じくらいどぎまぎしてしまった。

そんなティムの気持ちを知っているのかどうか、ローラは大喜びだ。…ティムの好きなスポーツ、好きな映画、好きなゲーム、好きな本。ときどき自分の好みも披露しながら、ローラの方から、どんどん話を進めていく。…そんなふうにして、2時間はあっという間に過ぎていった。

ティムは、ただ、自分はローラに聞かれたことに答えるだけだったので、ちょっとほっとした。しかも、他愛のないことでも、ローラはとても熱心に聞いてくれ、ときどき、大人びた口調で自分の話についていこうとしているのが、とても微笑ましかった。

(なんだか、これじゃ、ぼくが相手をしてもらってるみたいだな…)
 最初の緊張はどこかに行き、とてもリラックスしているのに気づく。じっさい、女の子と会話をするのがこれほど楽しいのも、今まであまりなかったことだった。

しかし、さすがに歳の差もあってなのか、2時間も続けると、話題がとぎれがちになっていた。ローラの方も、だんだん、今までのはきはきした調子が、なにか別のことを考えるふうで、ぽつ、ぽつと話しかけてくるだけになる。

ついに、どちらも言葉を発せず、気まずい沈黙がつづくようになる。

まじめなティムは、(なにか、ローラを楽しませないと…)と、再び焦り始めたとき、ローラが急にまじめな表情になったかと思ったら、…なぜか、恥ずかしそうに、もじもじと、こう言った。

「あの…ティム…さん?」
「え? あ、ティムでいいよ。なに?」
「えと、えとですね、あの…」
「なんだい?」        (…ここは、やっぱり...兄さんらしく余裕をもって…)
「あの、あの…隣…となりに、座っていいですか?」
「へ? あ、ああ、もちろん。どーぞどーぞ。」

すると、ローラはもじもじしながらも、うれしそうに、とととと…とテーブルを回り込んで、ティムの座る長いソファの方に来ると、ティムのすぐ隣に、ぴったりと寄り添って座った。…親を見つけた子猫みたいに。

…甘い、女の子らしい清潔な香りが、ティムの鼻孔をくすぐる。

「これで、いいの?」
「…は、はい。…あの、もう一つ、お願いが…あの。えと…」
「はいはい、お姫様、なんでもいたしますよ。お望みのままに。」
「あの、お願い、っていうか…その、ゲ、ゲームなんです。」
「へぇ、どんな?」
「その…ゲーム、っていうか…‘ベビーシッター’遊び、っていうか…」
「はぁ? いやぁ、ぼくが赤ちゃん役? ばぶーばぶー、って? おやすいご用です、姫。…ううう、ローラママ、ぼく、こんなにおっきくて重いけど、いいでしゅかぁ?」
「え、あの、その、ち、違うんです。あたしが、赤ちゃんで…その、ティ、ティムさん、に、ベビーシッターに…なって…ほしくて…」

ローラは隣で真っ赤になってうつむいてしまった。

(....? なんだか、ヘンなことになってきたなぁ..。仮にも、ローラも中学生、なんだけど。....ま、いいか。いい時間つぶしになれば。)
ティムは目を白黒させながらも、ローラに微笑んだ。

「あ…あー、ああ。ぼくの方が、ね。え〜、まぁ、パパ、ってとこ? うん、いいよ。…で、どうすればいいかな? うむ、姫、わたくし、修行が足りません。どうしたらいいのでしょう?」

「…あの、あたしを、あの、その、抱っこ…して…欲しいの…」


       「......え?....」


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