ぶん。やく。おおきい−いち。いちねん。に

<ほんやくから、のもうそうです>さく:とくめい
【....魅惑のボディ】いちねんご。02



「よ、よしてくださいよ、ボブ! これじゃ私まで子ども達といっしょじゃないですか!」
「わっはははは…今だってお前さん、オレの‘息子’じゃなかったか、んん? さすがに重くなってきたがね…よいせっと」

そう言いながら、ボブはケンを下ろし、子ども達に荷物を持ってくるよう伝える。

「もう行くんですか? お茶の一杯も…」
「ああ、ありがとう。ただな、うちのかみさんがキミんとこのやんちゃたちのためにいろいろ買い物をしたいから、早く連れてこい、って矢の催促なんだ。油を売ってたら、今度はオレが地獄に堕ちることになるよ…おお、こわ。」

その怖がりように、ケンは思わず大笑いしてしまう…なぜなら、キャティの母親、つまりボブの奥さんのエミーは身長150cm足らずの、小柄なリスのようなかわいいひとなのだ。
キャティと一緒だと、年の近い姉妹のように見えるが、ボブの2歳年上の67歳。どうやってこの羆のような男を操っているのか、いつも不思議に思ってしまう。

そうしているうちに、カイルとアミはそれぞれに着替えを詰めたバッグを手に、いそいそとRVの後部座席に乗り込んでいる。

「よし! 準備はいいかな? 王子さま・王女さま?」
「うん!」「いいよ!」
「…とと、ダインはケンと留守番かね? …あの娘は?」
「あ…その、近所の子…です。ダインの、いい友達でね…」

ボブの視線を追うと、ダインはいつの間にかあの少女の隣できちんと座り、行儀良く子ども達を見送る姿勢をとっていた。

疑問もなくすらすらと説明してしまい、ケンは自分でも驚いた。その少女はニコニコと笑顔を絶やさず、ダインの頭をなでながら、RVのふたりに手を振っている。

「…そうか、じゃあダインも寂しくはないだろうね。それじゃあ、行ってくるよ。」
「あとはよろしくお願いします。」
「パパ、行ってくるね!」「ぱぱー、ダイン、じゃあね〜!」

敷地から道路に出て、クラクションを軽く鳴らすと、かなりのスピードでRVは遠ざかっていった…

それを手を振りながら見送るケン。…しかし、ダインの隣に立ち、軽く手を振っている少女が視界に入ってくると、RVを追っていた視線が、なぜかその可愛らしい姿から離れなくなっていた。

と、その少女が、ケンのところにとことこと近づいてくる。なぜかダインもその娘の後に従ってくる…ふだんなら、どんな人にも迷惑なほどにまとわりつくのに、今日はやけに大人しい。

ケンの目の前に立つ。ポニーテイルの頭がちょうど私のへそ辺り…身長はアミより少し小さいか…110cmくらいだろうか。
歳はカイルと同じくらい、と思ったが、しかしそれよりもはるかに大人びて見える。
そのことを自ら知っているのかどうか…大きな瞳でじっ、と見つめられると、自分の方が子どもになったかのように、どきどきしてしまう。

「ね、のどがかわいた…何か、飲むものがほしいな…」

彼女が私を見上げながら、そうつぶやく。
人差し指を唇に当て、舌の先をちろり、と間からのぞかせると、ゆっくりと爪の辺りをつつき、なめるような仕草を見せた。あまりにもコケティッシュな…いや、蠱惑的な動きだった。




リビングのソファにちょん、と座り、私の出したオレンジジュースを、おいしそうに飲む少女。

グラスを両手で抱えるようにしているしぐさは、見たままの小さな女の子であり、ほほえましい光景だ…しかし、私はなぜか心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。

(…私はいったい、どうして子どもみたいにどきどきしてるんだ…落ち着け。落ち着くんだ…)

そもそも、彼女はいったいどこの娘なんだろう…名前は?
目をつぶり、何度か深呼吸をしていると…

コトン。

はっ、として目を開ける。彼女は、グラスをテーブルに置き、手を合わせて日本人のように深々とお辞儀をしていた。
その仕草がほほえましくて、私は思わずにっこりしてしまう。
それに気づいた彼女は、手を合わせたまま、上目遣いに私を見て、ウインクする…それがあまりにも大人びていて、私は背筋がぞくぞくした。

こほん、とひとつ咳払いすると、私は身を乗り出し、テーブルの向こうに座る彼女に声をかける。

「ええと、きみは…どこから来たのかな? 名前は?」

ゆっくりと、できるだけ落ち着いた声で話しかける。その間、彼女はじっと私を見つめたままだ。どうも落ち着かない。

と、聞き終えた少女は、突然、くすくすと笑い出した。
何か馬鹿にされているような気がしてムッとしかけるが、身体を起こし、腕組みして彼女を睨む。

すっ、と少女が立ち上がり、テーブルを回り込んで私の方にやってくる。あっけにとられていると、彼女は、すとん、と私の膝の上に座り込んだ。

「…? どうしたんだ? 私の質問には答えてくれないのかい?」
「…もう、忘れちゃったんだ? うふふ…」

独り言のようにつぶやくと、その少女は私の首に両腕を回してくる。甘酸っぱい、香水のような香りがふわり、と漂ってくる。

…たしか、近所にはアミやカイルと同い歳の子どもはいなかったはずだ…いったいぜんたい、私はどこでこの娘に逢っているんだ…??

じっと見つめてくる彼女の視線を受け止めながら、私は心当たりがないかと必死になって考える。
…と、にこっ、と笑顔になり、彼女が話しかけてくる。

「…これで、思い出してくれるかな?」
「??」

次の瞬間。私は自分の目を疑った。 …こ、これは…いったい?!



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