<ほんやくから、のもうそうです>さく:とくめい


....魅惑のボディ】いちねんご。01



あの、夢のような逢瀬から、どれくらいたったのだろう…

ある晴れた午後。植え替えた芝生が鮮やかな緑を日光に輝かせ、その上を6歳になったばかりのアミがペットのダインとじゃれあい、カイルは玄関への石畳でひとりMTBでスタンディング・スティルに打ち込んでいる。

どちらも誕生日のプレゼントに祖母からもらったものだ。

すでにキャティは妊娠7ヶ月。大きなお腹をかかえ、自分の母親の元に戻っているところだ。もうすぐ父親の方がふたりを迎えにくる。
運の悪い事にケンは連休中、何度かイベントの立ち会いに行かなければならず、ひとり家に残ることになった。

(…まぁ、管理職になったのだし、仕方ないが…)

もうすぐ‘お兄さん’‘お姉ちゃん’になるふたりだが、さすがにまだ大人がまったくいない状態での留守番はできそうにない。

…その問題をキャティの両親が解決してくれたのだ。

前庭で遊ぶ孫を迎えに、まもなく自慢の日本製RVで‘ボブじいちゃん’がやってくる。

「ねぇ! ダイン! お手! って…ちがうの! んもう…!」

(また、ダインがアミに‘イタズラ’してるな…)

ケンはキッチンで珈琲を入れながら、庭での光景を想像していた。

アミがダインにお手を教えようとしている…しかし、ダインは持ち上げた前脚をぽふ、とアミの頭にのせてしまう。
ダインはそのままひざまづいたアミにのし掛かり、大きくしっぽを降りながらアミにのしかかっていく。
ラブラドルの成犬ともなるとかなりの大きさだ。ちっちゃなアミはそのまま芝生に押しつけられ…。

(も〜う、あん…やめ、やめてよ! ダイン! くすぐったい、くすぐった〜い、…あん、もう!)

なすすべなくダインに組み敷かれ、大きな舌でぺろぺろを顔を舐め回されているに違いない…ケンですら、喜びの余り全力で飛びかかってくるダインにはとてもかなわない。ちびのアミではもうどうすることもできないだろう…

と…突然、ケンの脳裏にある光景がフラッシュバックする。




(んふふふ…ケン、もう動きがとれないでしょ? あたしのおっきなおっぱいで、あなたのちっちゃな身体なんて…びくともできないわ…うふん…)

大きな舌が、ぺろり、と自分の鼻先を、耳元を、首筋を舐め回していく…

巨大すぎる乳房が、重々しくケンの胸板、そして腹部を押さえつけていく…そのババロアのような膨らみの下半球を、自分の勃起しきったペニスがぴた、ぴたんと下腹部をたたく…


大きすぎる、少女・フェイ…

アミとカイルを連れて、浜辺へ散歩しに出かけ、目撃した光景…。
周りのマッチョな男たちを睥睨し、まるで子ども扱いした笑顔で、すさまじいボディを揺さぶりながら、微笑んでいる姿…

アミが「す〜んごくおっきいオッパイ! こ〜んなに、ぼい〜んぼい〜んなの!」と言ったその2週間後。
その言葉以上に、巨大なボディとバストを持つ女性が、自分を誘惑し翻弄した、あの日…

まるで格闘技を挑んだかのような自分の疲労とは真逆の、途方もないパワーを見せつけたセックスのあと、1週間分の食料を満たした冷蔵庫をいとも簡単に空にして、どこかへ消えてしまった、途方もなく強大な肢体…




気がつくと、トレーナーの下腹部が猛烈に膨らみ、血流がぐんぐんとそこに集中する…こんなに強烈に勃起したのは、久しぶりだった。

(…! どうしたんだ、いったい…あれからもう、1年以上になるのに…)

ケンはぶんぶんと首を振り、自らの妄想から抜けだそうとする。しかし、いきり立った下半身は、その命令に逆らうかのように大きなテントを屹立させていた。

あの夢のような一夜と、めくるめく朝。それをまさに‘一夜の夢’と思えるまでに一月以上かかった。

ケンは、キャティの小柄でキュートな魅力と自分自身への自信を取り戻し、新しい命を育もうとするゆとりまで生み出せるまでになっていた。
さらに時をほぼ同じくしての、主任から管理職に昇進。

家庭も職場も、どちらもが、肉体的にも精神的にも自分を信頼し、大きな存在として認めてくれていた。…そのことが、あの‘一夜の夢’で感じた、自らをちっぽけな・子どものように思わせたあの豊満すぎるボディの束縛から、すっかり解放してくれた。

そう、思っていたのに…

ほんのささいな妄想…それだけで、一気に背筋を駆け上ってくる快感…止めどなく下半身を滾らせ、肉棒を激しく勢いづかせるものは、いったい…?

ふと、前庭の喧噪がとぎれていることにケンは気づく。

我に返り、ベランダから庭を眺めると、そこには、おとなしく‘お手’をするダインと、顔をダインのよだれでべたべたにしながらも、お手をするおとなしいダインを呆然と見つめるアミの姿があった。
おまけにカイルまでがMTBを放り出し、その光景を口をあんぐりと開けて眺めている…。


ダインに‘お手’をさせているのは、カイルと同じくらいの年だろうか…黒髪をポニーテイルにした、かわいらしい少女だった。

オレンジのキャミソールに、セミロングのフリル付きのスカート。鼻はつん、と上を向き、大きな瞳でじっ、とダインを見つめている。

そのきりりとした唇が動き、今度は空いている右手を差し出した…なんと、ダインがおとなしく反対の前脚をその小さな手のひらに載せるではないか!

「わあ、すごいすごい! おりこうさんだね! ダイン!」

素直に喜び、拍手するアミに、にっこりと微笑む少女。

そのまなざしはしかし、子どもとは思えない大人びた雰囲気があり、ふだんなら容赦なく自らの愛情(?)を全身でぶつけていく、人なつこいダインさえも、おとなしく従っている。

(…こいつは、すごい。親御さんがドッグ・トレーナーかなにか? それにしても、どこの子だろう…?)

なにか惹かれるものを感じ、ケンはマグカップを持ったまま、庭に出て行く。

‘おりこうさん’のダインの頭をなでている少女に、アミとカイルは「ね、どーすればいいの?」と口々に質問をぶつけている。
にこにこと微笑みながら、しかし、ふたりの質問に答えようとはしない少女は、テラスから出てきたケンを振り返ると、軽く会釈を返してきた。

(この子…私は、どこかで逢った事が…??)

その輝くような、しかし暖かな微笑みを見て、ケンは何かのデジャ・ビュに囚われたような気がした。

と、そのとき、ごお〜っという音が彼を現実に引き戻す。

「あ、ボブだ! いぇ〜い! ボブ! …すっげえ車!」

カイルがMTBにまたがり、エントランスに入ってくるRVに突進する。エンジンが停止し、中から髭もじゃの巨体がぬっ、と現れる。アミも、そして我に返ったようにダインもその巨体めがけて突進する。

「おうおう、みんな元気そうだな! ボブじいが王子・王女さまを迎えにきましたぞ!」

ふたりと一匹(なかでも一番重いのは一匹か?)を軽々と抱え上げ、いとも簡単にその太鼓腹の上に乗せてあやしている。

ダインをたやすく言いなりにさせた、ポニーテイルの少女はその様子をにこにこと笑顔で見つめている。…と、私の方に視線を移すと、一瞬その笑顔が、とても淫靡なものに変わる。

ケンは、その視線に絡み取られたかのように立ちつくす…ボブの到着をそっちのけで、再び背筋から股間へと電撃が走る…。

「おう、おう! ケン、ひさしぶりだなぁ!」

振り向くと、太鼓腹にふたりと一匹に乗せ、ボブは重さをまったく感じないかのようにずんずんとケンに向かってくる。

ボブは身長2m20cmもある大男だ。すでに65歳になるが、かつて重量挙げの選手だった膂力はまだ衰えを見せていない。
と、腕に抱きかかえていたダインを歩道に下ろし、彼の腰を両腕でがっちりホールドしたかと思うと、あっという間にケンを頭上高く差し上げる。

「わぉ! すっげぇ!」「あーパパ、いいな〜!」

カイルとアミが同時に歓声を上げ、足元のダインも千切れんばかりにしっぽを振る。

ケンの視界はあっというまに3m近いパノラマになり、さほど広くない庭とエントランスが一望できる。

(あら、あら、ケン…あなたって、こんなに軽いの? 仕方ないわね…あたし、2m26cmもあって、まだまだ、伸び盛りなんだモン…うふふふふ…)

のそれは、あの‘一夜の夢’の体験をまざまざと思い出させ、ケンは急に持ち上げられただけではない、目眩に襲われる。

いったん収まっていたケンの下半身はみるみるうちに巨大なテントを作り出し始めていた。
が、自分も仲間に入りたいダインが吼え始め、それに気を取られた子ども達ふたりはもちろん、ボブも気がつかずにいた。

しかし、庭でひとり腕組みをしている少女の瞳は、なぜかケンの股間に吸い寄せられていた。
ちょうどその時、ケンも彼女を見下ろしていた…彼女の眼がケンの股間から上がり、互いの視線が絡み合う。
と、少女の口元に笑みが浮かび、ケンにウインクをして寄越してくる…

「どうした? ケン、ちょっと軽くなったか? すこし働き過ぎじゃないか、ん?」

ケンは少女の視線とウインクに、なぜか頬が熱くなり、さらに動揺してしまう…ボブの軽口が遠くで響いていた。



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