【美智】その8



「・・あ、あの・・・陽一おにい・・ちゃん? 美智です・・・。入っても、いいですか?」
「…え、あ、…ああ、ただいま! 美智ちゃん、どうぞどうぞ!」

ぼくは、普段通りに明るく、あいさつして、ドアへ。 …と、ゆっくり、ゆっくりとドアが開く。

「いや、なんだかずいぶん、‘大きく’なったんだって…おかあさんから聞い……」

…途中で、言葉がとぎれてしまう。

目の前にあるのは、とほうもない大きさにふくらんだ、スウェットシャツの、ふたつの山脈だった。…顔が、見えない。 プリントされた文字が、そのふくらみによって大きく歪んでいる。しかも、それはドアの向こう側で下半分しか見えていなかった、

…と、その巨大な山脈が下りてきたかと思うと、部屋の中にぐいっ、と押し込まれる。…すると、ドアの上の方から、すさまじいボリュームの膨らみごしに、くぐもったような、恥ずかしさを隠しきれない、小さな声が聞こえてくる。

「・・・陽一・・おにいちゃん・・・。び、びっくり、しないで・・・」

ドアの枠の上から、そんな声がした。…美智ちゃんの声だった。

唖然として、ドアの天井から眼が放せなくなっていた。…ようやく、大きな、大きなふくらみの上半分が見え始めた。前にかがんだのだろう、ただでさえ巨大な2つの胸の山脈が、部屋の中に突き出される。おまけに、あまりにも大きなその肌色の肉房は、ドアの両側にぶつかり、柔らかく形を変えていく…その間ずっと、スウェットシャツの襟ぐりをはじき飛ばしそうな胸の谷間が、生き物のように、もにょん、もにゃん、とうねり続けていた。

「……美智…ちゃん…?」

喉が、からからになり、思わずごくり、と息を飲んだ。

「あ、あたし・・・その・・大きく・・・なりすぎちゃって・・あの・・・」

…かわいい、でも、声変わりが始まったせいか、ちょっとハスキーな声と共に、頬を真っ赤にした、美智ちゃんの顔がドアのてっぺんをくぐり抜けてくる。ぼくの頭の中は、なにも考えられずにいた。

2m18cmの巨体が部屋の中に入り、ぼくの前に立つ。…ぼくは1〜2歩後ずさった。そうしないと、胸の前にある、とてつもない大きさに成長したバストに邪魔されて、顔が見えなくなるからだ。

しかし…猛烈な膨らみの、その先にあるのは、篠原美智・12歳の、恥ずかしそうな顔だった。

運動しやすいように、髪を後ろで1つに束ねている。ちょっと目尻の下がった、アーモンド形の大きな瞳。母親似のすらりとした鼻梁と、ハの字にやや両端が下がり気味のはっきりした太めの眉。…3か月前に比べて、ずいぶんと女らしく、大人びて見えた。

その表情には、すこし、脅えているような、なにかを畏れているような、色が浮かんでいた。 そのとき、頭の中に、ついさっき香さんが放していた言葉がリフレインする。

( …目立っちゃうの、あんまり好きじゃないから… )
( …もともと引っ込み思案なコだし… )

そう…。そうなんだ。

ぼくは、思い切って、美智ちゃんに近づき、えいやっとばかりに、その大きな身体に腕を回した。

「…あ。」

少し、後ろに後ずさる巨大なボディ。…しかし、ぼくはかまわず身体を押しつけて、思いっきり両腕を伸ばして、ふたつの膨らみの真下のあたりを抱きしめる。…ぼくの顔は、いとも簡単に彼女のとてつもない大きさの塊に埋まってしまう。

「…とっても、とっても、おっきく…おっきくなったんだね。…すごく、素敵だよ。美智ちゃん…。」
「・・・・陽一・・おにいちゃん・・・待ってたの・・・あたし・・ずっと・・・ずっと」

3か月ぶりに、やっと。…空港でも、してあげたこと。身長が、ぼくよりも40cmも高くて、ぼくの方が‘抱いてもらっている’という方が正しいようなかっこうだけど…。ぼくにできることなんて、これくらいしか、ない。
と、ぼくの背中を、大きな、大きな右手のひらが包み込み、お尻の辺りに、大きな左手のひらがそっとのしかかると、すりすりと、やさしく撫でてくれた。

「…美智ちゃん。きみが、好きだ。きみのことを、誰よりも大切に、想っている…」
「・・・陽一・・おにい・・・ちゃん・・・あたしも、おにいちゃんが・・すき・・だいすき・・・なの・・」

両肩にのしかかる、たっぷりと、重量感あふれる、ふたつの房。…そのはるか上から、少しくぐもった、それでいて、優しい、そして、かわいらしい、声がする。…それが耳に入ると、なぜだか心が癒されるような気がした。
「・・・こんなに・・。こんなに、おっきくても、あたしのこと・・・」
「もちろん。…美智ちゃんには、もっと、もっと‘大きく’なってほしいね! …そして、ぼくのことをね、だっこできるくらいに、さ!」

その巨大な、たぷたぷと揺れ、どん!どん!と砲弾のように水平に飛び出している、ふたつの肉房から顔を引き抜いて、冗談めかして美智ちゃんに微笑みかける。

「・・・陽一・・・おにいちゃん・・」

美智ちゃんの顔が、ぱあっと、明るくなる。ぱんぱんにはち切れそうな胸元越しに、ぼくを見下ろす、笑顔。

すこししゃがみこんで、今度は美智ちゃんの方から、ぼくを抱き留めようと大きな腕を伸ばしてくる。あっというまに長い両腕がぼくの背中に回され、全身がいとも簡単に大きなバストに引き寄せられ、抱きしめられる。

「うれしい・・・この、おっきな、あたしでも・・・すきになってくれて・・・・」

大きな手が、愛おしげにお尻の辺りを撫で、さすっている。…豊満、というには、あまりにも巨大な胸元の膨らみに上半身が埋まり、そして、バストをさらに強調するかのような細いウエストの辺りが、ちょうどぼくの股間に押しつけられる。…スウェット越しでも予想外にがっしりした腹筋を感じ取れる…。ぼくの股間が、なぜか、むく、むく、と反応しはじめる。

そんな‘分身’の生理現象で、はじめて、ぼくは、思わず自分の本音をもらしていたことに、気づいてしまった…。



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