不運にも、マゴットの家は、あのスージー・パリスターの隣だった。
そして、ああ、くそ、なんと彼女達も、そこにいたのだ。
ギャングの一味だ。スージー、ヴェロニカ、シーラ、そして、ダービィ。
第4学年の小柄で、いたずら好きな女の子。
彼女たちは、スージーの家のフロント・ポーチで、そろってひなたぼっこをしていた。
「ねえ、見てよ。みんな“負け組”の連中よ」
スージーは、大きな口を開いて、きゃっきゃと笑っていた。
スージーは、第6学年の間中、僕にくびったけだった。それが、好きな男の子を扱う時の、女の子特有のやり口だった。
ひよこは、うるさい生きものだ。
「ハイ、フランシス!」
ダービィが叫んでいた。フランシスというのは、マゴットのことだ。これは、君がまだ知らない情報だ。付け加えておく。
「ヘイ、ダーブ」
マゴットは、そんなに乗り気でない声で答えていた。
ヴェロニカは、長い髪を背中に掻き上げていた。マーシャルに微笑していた。
可愛そうな太目のシーラは、ただくすくすと笑っていただけだった。
シーラは、とても大柄だった。8Wのサイズを着るしかなかった。いつも大きくて平らな帽子を被っていた。
実際のところ、どこに行くにも、そのびらびらの帽子を手放さなかった。
スージーのような可愛らしいブロンドでもないし、ヴェロニカのような可愛い黒髪でもない。
いつでも同じようにふてくされたような表情で、重たい身体を据わらせていた。大柄でぶくぶくだった。
無視することもできなかった。少しおしゃべりをした。
ダービィとスージーは、リップ・グロスの新製品を手に入れていた。試していた。
姉妹は、新製品に目がなかった。何にでも飛びついていた。スージーが、僕が手に持っていたボトルを見つけた。
それは、なあに?
知りたがった。親切にも、ボトルを手渡してしまった。ラベルを読まれていた。
「あなたたちのような、オバカさんたちが、これで何をしでかそうっていうのよ?」
質問してきた。まさに、その時、シーラが何事かを毒づいていた。
「ああ。なんてこと。すべてが、上手くいきそうだったのに。あの女が、姿を見せるなんて!」
シーラは、ぶうぶうと鼻を鳴らしていた。怒りを表現しているのだ。
マーシャルとマゴット、それに僕は、同時に振り向いていた。まさに彼女だった。
そこには、ロレーヌ・パーカーがいた。道をファッション・モデルのような、気取った足どりで歩いてきた。
ロレーヌ・パーカーは、第5学年を修了したばかり。第6学年に進級しようとしていた。
僕達よりも、ちょうど、一学年下。
しかし、彼女は、ここにいる女の子達よりも、二つ、いや、ことによると三つは年上に見えた。
背が高くて、黒髪を腰の辺りまで長く伸ばしていた。
ほとんどの女の子達が、母親のお下がりのブラの中に、ソックスを丸めて入れて、いくらか嵩を増やしている中で、ロレーヌだけは、その内部を、そうロレーヌそのもので充満させていた。
襟首が丸く大きく開いたデザインの、白いポロ・シャツを着ていた。それは、彼女の持ち物を、ほんの少しだけ見せることに成功していた。他の少女たちが持っていない代物だった。
ロレーヌは、のんびりと舗道を散策していた。一歩事に、シャツの下で、何かの物体が動いて揺れていることに気がついていた。
スージーは、そんな風に揺れることはなかった。たとえヴェロニカでも同じことだった。シーラは、全身が揺れている。どこが、どこなのか見当が付けられない。
ロレーヌの上半身が揺れる光景は、とても興味深かった。彼女の方も、僕達が、注目していることに気が付いていた。顎を引いて背筋を伸ばしていた。少しだけだが、ふんと鼻で笑って……。
「ヘイ、スージー。ヘイ、ヴェロニカ。ヘイ、ボーイズ!」
彼女は、楽しそうに声をかけてきた。
スージーとヴェロニカは、何か答えていた。シーラは、怒った様な顔で睨みつけていた。ダービィだけが、ロレーヌに会えて、本当に嬉しそうな顔をしていた。
「あたし、これから、プールに行くところなの。あたしのマムが、新しいビキニを買ってくれたのよ。
古いものは、あたしが、大きくなりすぎちゃったので、小さくなって着られなくなっちゃったのよ。分かるでしょ?」
ロレーヌは、茶色いバッグを、僕達の注目を引いている、物体の方に持ち上げていた。中から、ホットなピンクの2ピース水着を取りだしていた。
「あたし、古い方のは、始末してきたところなの。先週、飛込みをしたときに、あたしのおっぱいの片方が、ぶるんと飛び出しちゃったの。
しゃくにさわることに、ボビー・レディックに、見られちゃったのよ。彼ったら、あそこを、もっこりさせていたわ」
僕にも、ロレーヌの鼻持ちならない自慢話が、スージーと友人たちを、本当に怒らせたことが分かった。
しかし、言い返せる言葉は何もなかった。ロレーヌのビキニを、うやうやしく手から手へ渡していった。
ヴェロニカは、彼女に返す前に、片方のカップの内側を拳骨で思いっきり殴りつけていた。ロレーヌは気がついていたが、誇らしく微笑むだけだった。
バッグを抱え直していた。僕達に、なぜそれほどに新らしい水着が、必要になったかという理由を、もう一度、明白に示してくれていた。それから、背中を見せて通りを歩き去っていった。
「せいぜい、おっぱいを自慢するといいわ。ロレーヌ・パーカー。それ以外には、あんたには、何もないんですもの」
シーラが、ぷんぷん怒っていた。
「たぶん、あれだって本物じゃないよ」
マゴットも攻撃していた。この険悪な空気を、なんとか解消したかったのだろう。
「ビリーが、詰めものだって言ってたもの」
ダービィは、飛び上っていた。即座にヒロインの防御に回っていた。
「あれは、ほんとうの、ほんとの、ほんものなのよ!」
勝ち誇ったように宣言していた。
「あたし、この目で見たもの。ほんものだったわ。スランバー・パーティで。みんなが、パジャマのシャツを脱いで、見せてくれるようにって頼んだの。
…そうしてくれたのよ。そこに、あれがあったの! ほんとうの女の子だけが持っている、おっぱいの持ち主よ。
スージーみたいに、詰め物はしていなかった!これぐらいは、大きかったわ……」
ダービィは、自分の手をシャツの下につっこむと、5センチは、前方に持ち上げて見せた。
「とても、きれいだった。あたしも、大きくなったら、あんなに、大きなのが欲しい!」
「あんたには、無理よ!」
スージーが反撃していた。
「どうして、あんたが、いつもそう、あのスカンク女の肩を持つのか、わかんないわ!あいつとレズなの!?」
「ああ、そうですとも。ぺちゃぱいのスージー。あたしは、ダッドに似ているって言われる。あなたは、みんながマムに似ているっていうものね!」
「ねえ、あたしたち、男の子達がいるところで、こんな話題を、おしゃべりするべきじゃないと思わない?」
ヴェロニカが、注意を促していた。それを合図に、女の子達は、立ち上がると家の中に引込んでいった。
*
僕達は、マゴットのお父さんの辞書を見つけた。見たこともない単語を調べていった。
「“Unguent"からだ…。」 僕は、読み上げていた。
「外用水薬、あるいは他の液状化したもの、それに類する液体。主に塗り薬として使用される。まれに飲用される場合もある。」
「たいして参考にはならないな?」
マーシャルは、次の単語のあるページを探していた。
「そうでもないさ。バカだなあ。この薬は、クリームやローションのように、塗り薬として使用できるってことさ」
僕は、答えていた。
「すくなくとも、その点だけは、はっきり分かったわけだ」
マーシャルが、次の単語を読んだ。
「なんてこった。諸君」
彼は、口から泡を吹出すばかりだった。
「言いかよく聞いてくれよ。…amastia; 乳房のない状態」
彼は、頁の真中あたりに視線を動かしていた。適切な場所を見つけたようだ。続けていた。
「Micromastia: 通常よりも小さな乳房の状態」
それから、この項目の最初の方に戻っていた。
「Hypomastia:発育不十分か、…は、は、は、は発育不全の乳房の状態…」
僕はボトルのラベルをもう一度、注意して読んでいた。
「amastia, micromastia, とhypomastiaに効能あり。」
僕達は、互いの顔を見つめあっていた。不信感が表現されていた。それから、マーシャルが微笑していた。
「どうやら、こいつは、女の子達の小さなおっぱいを、大きくする薬ということらしいぜ」
吐き捨てるように断言していた。
*
2.
三日後のことだった。
僕達は、アレンの半地下の部屋に集合していた。発見した品物を、どう活用すべきかという点を、議論するためだった。
明らかなのは、この秘密は、どの女の子にも、絶対に漏らしては、駄目だと言うことだけだった。
もうひとつは、この薬の人体実験の対象には、自分達がなることができないという厳然たる事実だった。
僕達には、効果を実証してくれる誰かが必要だった。自慢話をしないぐらいには口が堅くて、トラブルに巻き込む怖れのない奴だ。クラスの女の子達の名前のリストを作った。一人ひとり検討していった。
「サラは?」
「どこに住んでいるか、知らない」
「ヒーザーは?」
「あまりにも、宗教的性格」
「ジェイミー?」
「あいつの母ちゃんは、バイカーだ」
「ヴェロニカ?」
「扱いが、厄介」
「アシュレー?」
「だらしない」
「ケイトリン?」
「逆に、真面目すぎ」
「ロレーヌ?」
「効果があるか、どうしてわかる?」
とうとうマーシャルが立ち上がった。
「わかった!話に乗ってくる子がいる」
いずこかへ姿を消していた。三十分後、スージーの小さな妹、ダービィ・パリスター嬢を連れて来た。10歳の小さな少女は、アレンのベッドに座ったままで、カールした赤毛を振って爆笑していた。僕らの聖域で、このざまだった。
「マーシャルが、もらしてくれたところでは、あなたたち、何かの種類の「おっぱい成長薬」を、手に入れたんですって?」
「シー!」
僕は、人差指を口元に立てていた。
「黙れよ。誰にも知られたくないんだ」
「いいわ。イエスかノーかを答える前に、あたしにボトルを見せてちょうだい!」
マゴットが、彼女にボトルを手渡した。この部屋に隠しておいた、唯一のものだった。残りは、地下室の冷蔵庫の内部に保管してある。僕達を驚かせたことには、ダービィは、その場でシャツの前を開くと、ボトルのキャップを外した。片手一杯分の分量を手にとると、無造作にローションを胸元に塗り込んでいった。
「みんな。あんまり期待しないでね。ご覧のとおり、あたしの胸には、お見せするようなものが、なにもついてないんだから。だから、もし、あたしのおっぱいが、この薬で大きくなるような効果があれば、選択板にだって……あら!?」
「どうした、ダービィ?」
マーシャルが、尋ねていた。
「ああ、おお、ああ、かゆいわ」
「ほんとに、何か感じているのかい?」
疑り深いマゴットの発言だった。
ダービィは、胸を擦るのをやめていた。ローションが働いているという、何かの証拠を期待するというように、じっと見下ろしていた。わかったことがある。ダービィの未成熟なピンク色の小さな乳首が、黒ずんでいた。色が濃くなっていった。そして明らかに、あるポイントを超えた。見ている間にも、乳首の下に、小さなふくらみが生じてきた。何かが優しく、彼女の胸板の皮膚を、内側から押しているように見えた。
「なんてこった!」
マゴットが囁いていた。
ダービィは、自分の乳首に指先で触れていた。それを、ちっちゃな、まだ形作られたばかりの乳房に、押しこむようにしていた。
「効いているわ。みんな。効いているのよ」
彼女は、くすくす笑っていた。ボトルから残りの半分を手にとると、もう一度、塗りつけていった。
「今日一日で、そんなに大きくする必要はないと思うぜ。ダーブ」
マーシャルが、忠告していた。
「用法・用量を守ってというのは、一日に一回ってことだ。俺が昨年の冬、咳止めにもらったシロップのボトルには、そう書いてあった。また、明日、ここに来るといいよ」
ダービィは、シャツのボタンを填めなおしていた。落胆した空気を全身から漂わせていた。
「あああ、このシャツを着ると、何も分からなくなっちゃう。わかってくれる? がっかりだわ!」
「二日間、様子を見てみようぜ。ダーブ」
僕も、そう助言していた。
「週末まで待ってみよう」
*