【真琴と誠】
  その5)たいいく。

「おーい、こっちこっち!」  「パス出せ、パス!」

ダンダンダンダン! キュ、キュキュッ…

今日は体育はバスケットボール。クラスの男子が4チームに別れ、それぞれの対抗戦。
バスケはぼくの得意なスポーツだ。10月をすぎて、ぼくの身長は170cmにまで伸び、学年でもベスト5に入れる背丈になっていた。
おまけに、うちのチームにはクラス一すばしっこい、浩一がいる。

…パスが浩一にきた。また、ドリブルか? 敵の視線が浩一に集まる。

その隙に、ぼくはゴール下にダッシュ。
浩一はドリブルをしかけて、急ブレーキをかける。その動きで一気にマークをはずし、すかさずパスを出す。

パスを受けたのは学。しかし、あっという間に2人に囲まれ、またフリースローエリア外の浩一に戻す。
ぼくも敵をおびき出そうと、スリーポイントエリア外まで大げさにダッシュ。 …あれ? 誰もついてこない…その時。

「誠っ!」 その声と、バシッ!…手のひらにじぃ〜ん、としびれが来るのがほぼ同時。痛いけど、浩一の鋭いパスは誰にも止められない。

ノーマーク…。ぼくはとっさにその場からゴールポストめがけシュートした。

ピィ〜ッ!…先生のホイッスルと同時に、ボールがネットをくぐる。
「おお〜っ!」  周りから歓声が。 …そこでタイムアップ。

21対8。 ぼくのスリーポイントを最後に、ダブルスコアを越える圧勝。
ガッツポーズの仲間たち。思わず、ぼくも浩一と学にハイタッチをする。

…その向こうには、同じ、バスケットボールをする女子のコートが見えた。

「あ〜ん!」 「もうっ、このっ、このっ!」 「や〜ん! 真琴、反則だよぉ〜」

あちゃ〜…なに、やってんのさ…真琴…

そう、身長がクラス一、どころか、学校一の女の子・木原真琴。あと2ヶ月で13歳になる。ぼくよりも、なんと67cmも背が高い。
なんたって…2m37cmもあるんだ。

真琴は、自分のゲームはそっちのけで、ぽ〜っと男子のコートを見つめていた。…しかも、ボールを持ったまま。

「…すごい、セイくん…かっこいい…」

ずるっ。 ずっこけた。

「ひゅーひゅー、まっことぉ、か〜っこいい!」 あ…浩一はじめ、敵チームの奴らまでがぼくを取り囲んで、はやし立てている。

かぁーっ…ぼくは顔が熱くなってくる。

「ま、ま、まことっ! は、はやくご、ゴール、ゴール!」 あわてて声をかける。

「あ…そ、そっか。えぃっ!」

敵ゴール側からパスを受け取ったままの真琴、だんっ! という靴音をきっかけに、ぐるんっ!と勢いよくゴールにターンする。

ぼぃんっ! ぼうんぼうんっ!
「きゃあっ!」 「ああんっ!」

周りでガードしていたのは3人。その子たちがあっというまに…
真琴のおっきな胸の膨らみにはじき飛ばされちゃった…

「あ…」

そのまま、ぼーぜんと立ちつくす、真琴。

すると、敵チームはおろか、周りで見ていた女の子たちからブーイングが起こった。

「きょう、これで5回目です!」
「あのおっきな胸でのガードは反則だと思いま〜す!」
「せんせー、やっぱり、こーゆースポーツのとき、真琴さんは別格にしてほしいです!」
「あんなにおっきい選手がいたら、ハンデつけてくれないと勝てませ〜ん!」

…あれれ。ちょっと険悪そうなムード、かな…。
 真琴はもちろん、先生もちょっと困った顔をしている…。

そのとき、救いの手をさしのべてくれるかのように、授業終わりのチャイムが鳴る。

「はいはいはいはい、今のゲームはノーカウント。真琴さんのことについては、先生の宿題にさせてね!
 …さあ、授業は終わり! みんな、整列整列!」

男子のほうも、授業終了。男子も女子も、一番の成績を上げたチームが後片づけを任された。
最後の授業時間で、そのまま放課後だったから、それ以外の生徒はすぐに掃除、部活、帰宅部(?)に分かれていく。
残ったぼくらは、それぞれにゴールポストを引っ込めたり、ボールを集めたり…。

女子コートのほうが気になって、ぼくは後片づけしながら、ちら、ちら、と盗み見てた。

うつむいて、肩を落としている真琴。…さすがに、同じチームの女の子たちにはなぐさめられてるみたいだ…
でも、真琴の周りで見上げている女の子は、いちばん背が高い人でも、せいぜい身長150cmくらいで、先生もクラスでも背の低い子たちを組み合わせていた、ってことがわかる。

だけど…ってことは、真琴の顔は、少なくとも彼女たちの頭上90cm近くにあるってことだ。

おまけに、あの真琴のどどぉ〜ん!と突き出したバスト。彼女たちと真琴の間が妙に空いてるのは、きっと、それだけ真琴から離れないと、そのおっきなバストで顔が見えないからだ…。

「あの…あたしたちで片づけるから、真琴さん、先に着替えてて、いいから!」
 …彼女たちもそう声をかけて、後片づけに戻っていく。

真琴…。ぼくはそのまま眼が離せなくなった…。
と、彼女の眼がうるうるうるっ、となったように見えた。次の瞬間、だぁっ! と駆け出し、体育館の出口をくぐり抜けてった…。

「ほらぁ、なーにやってんだよ、まっことぉ!」

はっとして振り返る。

「おまえしかいないだろ? あのでっかいけど、優しい子をなぐさめられるのは、さ! …ほらほら、そのボール、おれにパスして、ダッシュダッシュ!」

ボールを片づけてる浩一だった。ぼくは、黙ってうなづくと、ぽん、と浩一にボールを渡す。

「ありがと、浩一!」
「じゃあこの貸しは、放課後、こな屋のたこ焼きでチャラな!」

ぼくのと合わせて2コのボールを器用に両脚の間でドリブルしながら、ぼくの背中に浩一が声をかけてくる。…だから、友だちって、いいよな。



体育館を出て、ぼくはまっすぐ校舎の裏側にある、屋外用具小屋に向かった。
去年体育館が新しくなったせいで、今は使われていないところ。

でも、ぼくは知っていた。…真琴がそこにいることを。

からからから…。そぉ〜っと、しかし相当力を込めて、重い引き戸を開けていく。

「ええ〜っと…あの…入って、いいかな?」 ……か細く、ちょっとしゃくり上げる音が、一瞬、止まる。

奥の明かり取りから入ってくる光が、大きな、大きな陰を作っている。真琴だ。

陰はちょうど座っている真横のシルエットを床に落としていた。ばうん、ぼいん、と飛び出したバストが、膝の上にのしかかっている。
そのため、ふつうなら上半身と脚の間にある隙間がまったくない。

見上げると、眼を真っ赤にした、真琴が体育座りしている。

「セイくん…あたし、こんな…お、おっきくなりたくて、なったわけじゃ…ぐす…」

ぼくは近づいて、そのまま、彼女の頭を優しく胸のところで抱きかかえる。
真琴も、ことん、と頬をぼくに預けてくる。

「うん…わかってる、わかってるって。元気、出して。…さ。」

さらさらの髪が、ふわぁっと、ぼくの胸元に広がる。…ぼくはその髪を梳くように、ゆっくりと頭をなでてあげる。
ふわん、と、ラベンダーのかすかな香りがぼくの鼻孔をくすぐる。…真琴の使ってる、シャンプーだ。

「みんなだって、本気であんなこと、言ってるわけじゃないと思うよ。」
「…そ、そう…かな? …ホントに、そう思う? セイくん…」
「うん…。でもさ、ああいうときってさ、みんな真剣にプレイしてるんだからさ、ボール受け取っててぽけーっとしちゃってると、やっぱり、
‘体格に差があるから、馬鹿にしてんじゃないの?’って思われるかもしれないよ…」
「…え? そ、そんなに、あたし、ぼーっとしてた?」

くい、とぼくの顔を見上げる。すると、その勢いで、おっきな胸元が、ばいん、ぶるぅん、って揺さぶられる。

…いつ見ても、おっきいなぁ…。今日だって、女の子3人ぶつかって、尻餅ついてたもんな…

「…あ、そ、その、試合中によそ見はまずいんじゃないかなぁ…」

真剣な、まっすぐにぼくを見つめる真琴の瞳。一瞬そのおっきな膨らみに行きかけた視線をあわてて戻し、そして、ちょっと照れくさくなって、前髪を止めてる細めのカチューシャに視線をそらす。
…ぼ、ぼくだって、真琴のこと、偉そうにいえないじゃん…

「…だって…。男子コートでおっきな声がしたから…びっくりして振り向いたら…セイくん、すごくジャンプして、ボールがきれいに手から離れてて…。それがすぱーん! ってゴールネットに入って…それで、セイくん、センターライン近くで…。すんごく、か、カッコよかったんだもん…」

え? …それって……?

びっくりして、ぼくは真琴の顔を見直す。…と、なぜだか、真琴は瞳をうるうるさせて、顔を真っ赤にして、ぼくを見上げていた…。

「…それでそれで、こんなおっきな、おっきな女の子でも、こわがったり、冷やかしたりしないで、ふつーに話してくれたり…こんな風に、あたしがさびしかったり、悲しくなったりしても、はげましてくれたり、優しくしてくれるのって…セイくんが、いちばん…なんだもん…」

今度は、ぼくの方がかぁ〜っと耳まで熱く火照ってきてしまう…。

「あ、あのその、その…で、ででででもでも、やっぱり、よ、よそ見はままま、まずい…」

「…でもでも、セイくんだって、‘ぽーっと立ったまま’の真琴を、見てたんでしょ? …だから、「ゴール、ゴール!」って…言ってくれたんだよ、ね?」

ぼくの体を、ぐい、って引き寄せると、真琴はさっきまでの‘悲しくて’じゃない、ふしぎな‘うるうる’した瞳で、ぼくを見つめて、そんなことを耳元にささやく。

気がつくと、真琴に引っ張られ、ぼくの上半身はバランスを崩し、彼女のおっきな、おっきなふたつの膨らみの間に…。

ぼよよん、ぷよよん…

ふっかふかで、ふぁんふぁんの、暖かくて弾力あふれるクッションが、ぼくの体を包み込む。

…いま、このおっきな、おっきな膨らみ…いったい、どのくらい、あるんだろう?

たしか、夏休み前の身体測定で、トップは1m52cm。アンダーバストは、6月から変わらず、100cm。ウエストも、同じく69cmだったはず…。
でも、確か夏休み明けに、特注のQカップのブラジャーが、窮屈になっちゃった、とか、言ってたような…。

そう…だって、これまた特注の体操着でもそのとんでもない大きさになったバストのすごい膨らみに丈をとられて、おへそが見えちゃってたもの…
あのとき、きっとそのおっきな小山の陰になって、ガードしてた女の子、見えなかったんだろうなぁ…

その大きな大きな膨らみは、今ぼくの目のすぐ下にあって、彼女が身体を少しでも動かすとぶるるん、ぶるん、と揺さぶられ、きつきつになった襟ぐりから、今にもこぼれ落ちそうだ…。

ぼくはどきまぎして、えいやっ、と視線をその豊満すぎる膨らみから引き剥がす。
…すると、ふわっ、と頭が持ち上げられ、ぼくの頬には、真琴の柔らかなほっぺがぺったん、とくっついた。

「…あたしのこと、いつも心配してくれる…ありがと、セイくん…」

そんな、つぶやきが聞こえて。

ぼくの頬から、ふわ、と暖かい真琴のほっぺが離れて。

ちゅ。

ぼくの頬に、べつの、しっとりとした、柔らかい感触が。

…びっくりしたぼくを、真琴は、その巨大なボインボインの、すごい膨らみに、さらに押しつけていく。

ぼくは、そのおっきな、おっきな、胸板から7〜80cmは飛び出している、まぁるいババロアにほとんど全身をもたせかけていた。

「あの、あのあの…ま、真琴。…ちょ、ちょっと、そのあの…お、重くない?」

ぼくは、頬に感じた唇の感触と、ふかふかの、おおきな胸のクッションに、どぎまぎしながら声をかける。

…でも、真琴はぼくの背中に両手を回すと、そのままじっと、ぼくを抱いたまま…。
とく、とくん、とく、とくん、とく、とくん…。

そのすごくおおきな、おおきな、暖かい膨らみの下から、真琴の鼓動が伝わってくる。

「…セイくん…だいすき…」

かすかな声と、静かな、胸の鼓動…。

…気がつくと、ぼくの頬にぴったり、自分の頬をくっつけて、安心しきったように眼を閉じている、真琴が見えた…。

すー。すー。すー。

あれれ? ね、眠っちゃったのか…。
彼女の、その大きな体に比べれば、170cmもあるぼくだって、小学生みたいにちぃちゃく感じるのに…

でも…。 寝息を立ててる、素直な真琴を見てると…

…ぼくも、なんだか、すごく幸せな気持ちになって、その大きな膨らみに体をあずけ、そのままじっとして…
真琴の気持ちを、いつまでも、いっしょに感じていたくなっていた…。


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