あの笛地静恵さんから、また、すばらしいおはなしをちょうだいしました。
あの、有名な「第三次性徴世界シリーズ」の一篇。ほんとうにありがとうございます。

こんかいも、和風のふんいきを出すために、明朝体の表示にしています。
だいぶ文字が大きめかとは思います。読みやすさなど、ご感想いただけると幸いです…


ちょうだいしてから、だいぶん経ってしまいました。笛地さん、みなさん、申し訳ありません。
わたくしにいただいた理由は…おそらくは…。お読みいただければ、おわかりになるかと思います。じっくり、おたのしみください。



■□■□■□■□■□■□■ 第三次性徴世界シリーズ ■□■□■□■□■□■□■

 えろえろ 

 さく: 笛地静恵 
2007.Sep.19

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




1.二倍体女性専用団地


 僕は団地の中の、朱色の焼き煉瓦を隙間なく埋め込んだ道を、歩いていた。土曜日の深夜0時から日曜日の朝7時まで、駅前のファスト・フード店兼お弁当屋『ほかほか百舌屋(もずや)』で七時間のバイトをしていた。時給がいいのだった。

新東京市のノイエ・シブヤにある、青猫山学院大学も休みである。僕は、一山越えて、この盆地の文教市にある父の実家から、一時間半かけて高速バスで通学しているのだった。歴史学部考古学科の学生である。将来は、大学院に進むつもりだった。バイトをして学費を稼いでいた。発掘の際の交通費も、自分で負担しなければならない。日曜日は、寝ていればいい。別に友達や、ましてや彼女がいるというわけではなかった。

 日曜の朝八時の駅前の通りは、白々とした光に照らされていた。ネオンと夜の闇が隠していた、街の醜さのすべてが白日の下に晒されていた。あちこちに散らかったゴミを、羽を広げると僕の身長ぐらいはありそうな烏が啄んでいた。電信柱の下に、酔っぱらいの落とし物があった。不健康な顔色の浮浪者が寝ていた。新聞紙がビル風に舞っていた。
 最近できたばかりの大通りを、古い団地に向かっていた。女性専用バスが、移動するビルのような巨体で舗道を振動させながら、風を巻き起して通過していった。高い位置にある窓から、OL風の女性が、僕の顔をじろりと睨みつけていった。1.8リットル入りのバケツ大の珈琲の空き缶を蹴飛ばしていた。まだ中身が残っていたいた。茶色い液体を垂流しにしながら、ごろごろと坂を転がって行った。

 僕の住む文教市は、この地域では、中学校や高校が集中しているので「学校区」と呼ばれている。さすがに日曜日の早朝に、学生の姿は少ない。児童生徒の生活の場所の「生活区」は、この町からバスや電車で行けるところに放射状に分散している。年齢によって、住む場所が異なる。体格の相違によって生じる不都合を避けるためである。世代間の交流は、「学校区」でなされるというのが、文部教育省の方針だった。「生活区」の自治は、女子生徒を中心とする自治会の運営によって、維持されている。

 今朝は、「学校区」の文教市民体育館で、女子高生のホット・ヨガの大会がある。昼食の仕出し弁当用に、一個、6キログラムの人造肉の女性用ハンバーグを、百個、焼かされていた。かなり、肩に来ていた。油の重い臭いも、鼻についている。Tシャツにも、こびり付いているような気がする。ジーンズの腰を叩いた。大きくのびをしていた。


 気分を転換しようとしていた。この団地は、仁内先生が住んでいたおかげで、色々な意味で、僕の学校になっていた。特に、庭は、一人でも訪れ、何度も散策した。よく知っているはずなのに、いつも道に迷う。迷路のようなつくりになっていた。自分で『秘密の花園』と名づけている。学校の都合や急なバイトで二週間ほど足を踏み入れていなかった。

昔は、高さ10メートル以上の高さにまで、コンクリートが聳えていた。その上には、高圧電流が通った有刺鉄線が、ぐるぐると何重にも回転して張りめぐらされていた。刑務所のように、ものものしい光景だったようだ。

団地そのものは、日本のあちこちにある。既製品のような建築物だった。コンクリートの箱のような形をしている。四階建てである。各階に四棟が並んでいる。玄関を入ると、すぐにキッチンと台所がある。その奥が、脱衣所と風呂場だった。窓際の方に、洋風の居間、六畳と、八畳の和室が並んでいる。この和室は、木の床の洋風に改築が可能だった。窓の外は、洗濯物が干せるテラスになっていた。



 今では、想像もできないが、ここには男性が外からは自由に入れなかった暗い歴史がある。罪を犯した囚人ではない。単に巨人であると言うことで罪と判断された。隔離政策というやつだった。若い独身女性達の、一種の収容所だったのである。
男性社会には、巨大な少女たちは恐怖の的だったのだ。歩哨もいたという。見張り塔は、今でも団地の四隅に残っていた。火の見櫓にもならない。無用の長物だった。花園になっている部分も、昔を知っている街の古老の証言では、運動場に使われていた場所のようである。市民でさえも、忘れていることだった。


 時代は変化した。金網の扉の鍵が壊されていた。出入りが自由になった。付近の人が、便利な近道として、利用するようになっていた。大きな団地を迂回しようとすると、かなりの遠回りになるからだった。煉瓦は、数百キログラムの体重を受けて、あちらこちらに凹凸ができていた。ぼんやりと歩いていると、つまずいて転んでしまうだろう。

しかし、最近は、「学校区」から電車の駅に一直線に向こう、広くて新しい道路ができていた。そちらの方が、短距離で便利である。新たな商店街も道の両側に誕生している。今になっては、この団地の中の古色蒼然とした通路は、原則的に団地の住人だけが利用する私的な道となっていた。



 地元の古びた団地をめぐる歴史の変遷を、僕達に教えてくれたのが、男子校の社会の先生で「歴史同好会」の顧問を務めてくれていた、仁内友則先生だった。話がおもしろいので、生徒に人気があった。それに、奥さんと二人で同棲していると言うのも、現代には珍しい夫婦の形だった。興味があったことも確かである。

子供は、体外受精で作る。結婚はしないというのが、今の普通の男女の生き方だった。子供は「生活区」で集団生活をしながら育っていく。しかし、先生は、娘が小学校に入るまでは、母親の元で育てて欲しいと言う考え方を持って実行していた。他人とは異なる生き方を、どんな抵抗があっても、昂然と突き進んで恥じなかった。

 しかし、奥さんの矩香(のりか)さんに、育児と家事の負担がすべてかかることになる。彼女の理解がないとできないことだ。どうして、そこまでの事をする必要があるのか?僕には、よく分からない。まあ、ともあれ、僕は美人の若奥さんの矩香さんの手料理をご馳走になりに、「歴史同好会」の仲間と、何度もお邪魔していた。

 仁内先生が、青猫山学院大学教授の恩師に懇願されて、インドのモヘンジョ=ダロやハラッパの調査のために、しばらく高校を休学すると聞いたときは、なんだか哀しかった。僕達は、もう高校を卒業してしまっていたとしてもだ。海外への調査旅行の壮行会の席上で、久しぶりに再会したかつての教え子達に報告する先生の瞳は、間違いなく輝いていた。



 道の左右には、四階建ての女性専用団地が並んでいる。この地区には、全部で12棟の、こういう建物が出来ていた。
 日本全国で、十代の成長期の少女たちの、第三次性徴が一斉に開始された時代のことだ。大慌てで作られた施設のひとつだった。第三次性徴という。それまで第二次性徴までしかなかった人類が体験したことのない、まったく新たな成長の過程のことだ。主に、十代の少女のみに発現した変化である。その時代には、最終的には、成人男子の二倍の身長が最大値にだった。この団地は、ちょうど二倍体の女性が、不自由なく生活しやすいような、設計がなされている。

 不思議なことには、第三次性徴が男性に生じることは、なかった。仁内先生によれば、かつては環境ホルモンによる水や空気の環境汚染から、地球温暖化の現象、さらには、人類の新たな進化のステージではないかとか、某国の遺伝子異常を生みだす生物兵器が、実験段階で漏洩したからだという説まであったそうだ。ガイア隕石によって、宇宙から持ちこまれた未知のウイルス説や、宇宙人の地球侵略説もあった。

 理由はどうであれ、彼女達の基本的人権は、国家として守らなければ成らない。住む家さえなかった。普通のサイズの家では収容しきれない。様々な施策が取られた。試行錯誤の時代だった。大多数の地方自治体では、プレハブの仮設住宅で対応していた。が、とても間に合わない。

政府が、緊急で特別措置法を作った。国会を通過した。大量の国家予算が、投入されていった。おりしもガイア隕石の地球衝突に伴う、大災害の被害を受けた。人類の都市は壊滅的な状況にまで追いこまれた。特に大津波による沿岸部の被害は国土が狭く、太平洋ベルト地帯に人口が集中していた日本では被害は甚大だった。

 爪痕のような空地が、各地にあった。団地の道を作っている焼煉瓦も、大災害に伴う大火で廃墟になった街の膨大な燃えないゴミの山を再利用した。粉砕して、焼き上げて、作ったものだ。旧世界の遺物と言えた。歴史の遺物の上を歩いているようなものだった。被災地で不幸にも行方不明になった被害者の人骨さえも、分別できずに混入されているという噂があった。

 建設の主体は、『第三次性徴対策都市住宅公団』とか、言っただろうか?それでも、需要に供給がおいつかなかった。日本全国が、第三次性徴特需に沸きかえっていた時代だ。なにしろ、彼女達の二倍体のサイズに合わせて、衣食住のシステムのすべてを新たに作り直す必要があった。この住宅も、もしかすると、手抜き工事だったのかもしれない。

 築数十年しか経っていない割には、壁に大きな罅割れが出来た物もあった。ある棟の壁には、偶然に過ぎないのだが、『人』という文字に、そっくりな形の割れが側面の壁全体に生じていた。
『人食い団地』というあだ名がついた。観光名所になってしまった。この棟は、さすがに取り壊された。今は空地になっている。もとは13棟あったということである。

 最近、大規模な修復工事が公団の手によって、各棟、順番になされていった。塗装が剥げ落ちてしまって、皮膚病のようになっていた壁面に、淡い桜色のペンキが塗り直された。暗いイメージが一新された。それまでは、地元の小・中学校に通う男子生徒にも怖い場所だった。団地に入り込むと、生きては出られないという噂があった。団地の欲求不満の二倍体女性の餌食にされる。食われるという物まであった。一種の都市伝説だった。小、中学生時代の僕も、薄暗い夕方の時間になると、怖くて近寄れなかったことを覚えている。

 高校生になってからは、仁内先生のお宅があったので、さすがにそんなことはなくなっていた。第一、失礼な話ではないか。今では、時代遅れの傾向を帯びている二倍体専用住宅として、空き室が目立つとしても、人が住んでいるのだ。それに庭は、秋の草花が盛りを迎えていた。色とりどりの花が美しかった。誰かが、庭に植えた草木が種を飛ばす。人の手が入らなくなってから、庭は自然の状態を取り戻そうとしていた。花園のジャングルになっていた。



 秋の草花が花盛りだった。僕の背丈ぐらいの「インドの女王」という薔薇があった。矢車草もある。濃紫のチューリップがあった。紫色のヒメコスモス(ブラキカム)は、薄紫の上品な花の色をしていた。フォックステイルは、その名前の通り、狐の尻尾を連想させる薄である。エレムレスは、地上五メートルの高さにまで黄色い花火のように咲き誇っていた。七色の花園だった。ガーデニングという趣味が華やかだった時代の忘れ形見たちだった。華麗なのに寂しかった。自然のままで、人間の手が入っていない。獰猛に繁茂していた。

 その中に男性が入り込むと、外が見えない。コスモスでも花の高さが、僕の目線にある。もっと丈の高い花もあった。水仙は、直径1メートルの紫色の花を開いていた。僕ならば、顔を突っ込めるだろう。花粉だらけになるに違いなかった。ちょっとした、迷宮に入り込んだスリルが味わえる。

もう水の出ていない石の噴水もあった。水盤に、いつの歳のものとも知れない枯葉が、溜まっていた。茶色い土に還ろうとしていた。小さな池には、緑の泥が溜まっていた。庭は人の手が入らないままに、死んでいるも同然の状況だった。誰もいない、閉鎖された公園のベンチが、揺れていた。まるで、今、さっきまで子供がいて立ち去ったようだった。

植物も、第三次性徴を経過していた。こちらは、雌雄ともに変化した。旺盛な生殖活動が可能だった。人間のように体外受精などの人工的な方法に頼らないと、種族の存続が出来なくなった不便な種とは異なっていた。


ヒン、カラ、カララ〜


 どこかで駒鳥が鳴いている。橙色の頭が可愛い鳥だった。雄のみが、灰色の腹との間に、黒い帯がある。この庭は、野鳥の楽園でもあった。口笛を吹いていた。駒鳥が答えてくれた。僕は、動物には小鳥から、犬や猫まで、けっこうもてる性格だった。劣等生の僕だったが、この点だけは仁内先生にも誉められたことがあったので、良く覚えている。

植物達は、傍若無人に繁茂していた。昔とは、数倍のサイズになっている。夏には、直径1メートル50センチ。高さ十メートルを越えるヒマワリが咲いていた。まさに植物のライオンだった。その野獣のように獰猛な生命力には恐怖を覚えるようだった。今は、秋の草花なので、もっと慎ましく、しなやかに美しい。

あの人のようだと思った。あの人の部屋は四階にある。ベランダの窓は閉っていた。見上げていた。僕が、特別な感情を抱いている人だった。もしかすると、彼女も僕に特別な感情を抱いているのではないかと感じる時がある。たとえば、その視線が、僕のジーンズの股間に熱線のように透過しているのではないかと思える時がある……。




2.幼女の巨乳


「だあれだ?」

大きな手に目隠しをされていた。

「わあ、びっくりした!!」

僕は、大きな声を上げていた。

「ぐふふふふ」

 僕の後頭部のつむじに、甘いミルクの匂いのする息がかかっていた。真沙子ちゃんだった。僕の遊び友達である。五歳になったばかりの女の子だった。幼稚園に行っていない。近所の子が出かけている間は、団地の庭で一人遊びをしている。仁内先生の奥さんの矩香さんのことを、考えていたら、一人娘の真沙子ちゃんが、背後に忍び寄っていたのだ。本当にびっくりしていた。

「さあて、誰かなあ?」

僕は、分からない振りをしていた。

「三回だけ、当てさせて上げるよ」

真沙子ちゃんの声は、自信満々だった。

「愛撫好子(あいぶすきこ)ちゃんかなあ〜」

僕は、彼女の遊び友達の名前を上げていった。

「ちがうも〜ん!」

低い声だった。彼女は、わざと声の高低を変えていた。分からないようにしているつもりなのだろう。

「それじゃあ。永澤雅美(ながさわまさみ)ちゃんかなあ〜?」

 目鼻立ちのくっきりとした、大人びた顔の美少女だった。『ほかほか百舌屋』にも、来てくれたことがあるのだ。大食いでびっくりしたことがある。「ギガ百舌屋」という2キログアム四段重ねのハンバーグを、ぺろりと平らげてしまった子だった。

「ちがうよ〜!あと、一回だけだよ」

高い声だった。鼓膜が痺れて、じんじんした。彼女の手首を掴んでいた。もう骨は、僕より一回り太いぐらいだった。

「分かった。仁内真沙子(じんないまさこ)ちゃんだろ〜?」

「アッタりい〜!」

 僕は、彼女の目隠しから解放されていた。振り向いていた。まだ、上の前歯二本が生えそろっていない五歳の少女の顔がそこにあった。目鼻立ちが、幼女の時期を越えてはっきりとして来ている。切れ長の鋭い瞳は、お父さんの仁内先生に、鼻と口は、お母さんの矩香さんに似ているのだろう。
「どうして分かったの?」

大きな目を見開いていた。今度は、びっくりするのは彼女の番だった。当るはずはないと思っていたのだろう。声色を使っていたのだから。

「なんとなくだよ」

「コリンお兄ちゃん。すっご〜い!!」

 尊敬されていた。僕の名前は、古林根治(ふるばやしこんじ)という。あまりにも古臭いので、友人達にはコリンと呼ばれている。真沙子ちゃんに教えたら一発で覚えた。

 赤い薔薇柄のワンピースに、サンダル履きの長身の美少女が、そこに立っていた。剥き出しの長い手足の素肌が、まぶしかった。長い髪を、左右に振り分けてまとめていた。手足は相対的に細いが、お腹は、ぽっこりと突き出している。五頭身ほどの幼児体型だった。頬のふくよかな丸みに、あどけなさが残っていた。相対的に顔が大きいので、笑うとほんとうに可愛い。

 第三次性徴が来ていなくても、女の子の成長は早い。五歳の少女は、もうすぐ身長が、180センチメートルを越えると言っていた。毎朝、お母さんに、柱に傷をつけ計ってもらっているのだという。この夏で、10センチメートル身長が延びていた。仁内先生が、インドから帰る来年までに、200センチメートルを越えると、約束をしているのだと言う。

 僕は、176センチメートルそこそこだから、もう4センチ分は抜かされているのだ。こうして、向いあって立っていると、彼女の目が、明らかに僕よりも高い位置にあることが分かる。見下ろされていた。それに、赤いワンピースのU字型の深い襟からは、林檎大の巨乳の上半分のお肉が、むにゅうと高く突き出していた。この前、「100センチメートルを越えた」と誇らしそうに宣言していた。歯のない無邪気な笑顔で見つめられていると、どこを見ていいのか、困ってしまう。真沙子ちゃんの睫毛の長い瞳が、ぱちぱちと瞬いていた。



「お兄ちゃん。ちっちゃくなったね」

彼女は、大学生の僕よりも、背丈が大きくなった事が、よほど自慢で嬉しいらしい。ことあるごとに、僕の頭に掌を乗せた。それを、自分の顔に平行移動していった。彼女の広い額の真中に当っていた。

「違うよ。真沙子ちゃんが、大きくなったんだよ」

実感だった。僕は彼女のオシメを取り代えてやった事が、何度もあるのだ。可愛い割れ目も、目にしている。時の過ぎ去るのは速い。

「違うもん。コリンお兄ちゃんが、チビになったんだも〜ん」

「こら!チビって言っちゃ、だめなんだぞ!!」


 僕は、本気で叱っている振りをした。「チビ」は、第三次性徴世界では、禁句だった。女性が、男性に言ってはいけない言葉の筆頭だった。この点は、子供の頃から躾を、しっかりとしておく必要があった。仁内先生のいない今、僕が、その役目の一端を担わなければ成らないと思っていた。」


「や〜い。チビ。チビ!」


 しかし、真沙子ちゃんは、身を翻した。逃げ出していた。木のサンダルの底が、煉瓦の道にパタパタと鳴った。風のように走り抜けていく。凄い速度だった。距離を開けて立ち止った。

「悔しかったら、ここまでおいで!」

 真沙子ちゃんは、立ち止って上半身を、しなやかに折り曲げていた。両脚の間から顔を出して、「あっかんべ〜!」をしていた。

赤い薔薇の花柄のワンピースの裾が、めくれていた。綿のパンティが、午前の陽光に白く光った。全く、気にも留めていなかった。お尻に大きな子猫のキャラクターの顔のマークがついている。若い男性としては、癒される瞬間だった。白いパンティを、左手でぱたぱたと叩いていた。挑発される事にした。

「もう、怒ったぞ!許さないからな!お尻を、ぺんぺんしてやる!!」



 女子中・高校生相手では、こうはいかない。限界まで短くしているスカートの中を、覗きなどしたら大変だった。性格の悪い女子だと、因縁をつけられる。ぼこぼこにされるだろう。金品を取られるぐらいなら、まだ良いほうだった。レイプの口実にされることさえあった。

 美形の大学生の友人は、「美少年狩り」の餌食になっていた。ノイエ=シブヤの裏通りで、女子中学生三名に、まわされた。抵抗したのが、いけなかったようだ。ペニスを噛み切られた。半殺しの目にあった。

 男子は、女子の足元の影の中を、背中を丸めて俯いた姿勢で、歩かなければならなかった。この「秘密の花園」では、その暗い宿命から、つかのまだが開放されるのだった。



「コラ、待て〜!!」

 真沙子ちゃんは、長い長い脚で駆けていく。そのまま庭の叢に、飛びこんでいった。僕も後に続いた。草を左右に掻き分けていた。緑の草いきれ。空気は、むせ返るようだった。九月になっても温暖化の地球は、なお暑い日が続いていた。エルニーニョやラニーニャ現象と呼ばれる、地球の南海上の水温上昇の影響を受けていた。

蝉時雨がうるさい木の下を、赤とんぼが飛んでいた。夏の中に遅い秋が、おずおずと忍び寄っていた。中天の太陽の光が、じりじりと肌が焼けるような光を投げ落としていた。渡り鳥の駒鳥が、馬の鳴き真似をしていた。


ヒン、カラ、カララ〜


どっちだ?

 真沙子ちゃんの赤いワンピースは、この緑の世界では、ひどく目立った。草の中にしゃがみこんでいた。僕は、赤い影に飛びついていた。

「きゃあ!」

真沙子ちゃんと一緒に、僕も草の上に倒れ込んでいた。彼女が、草の汁に木のサンダルを滑らせたらしかった。

ぼわん。

身体が、二個の丸いゴムボールの上で、弾んだような気がした。真沙子ちゃんのおっぱいの上に乗っていたのだ。

「痛〜い!」

胸にぶつかってきたものがあった。真沙子ちゃんが、思いっきり両手で、僕の胸を突飛ばしたのだ。僕の身体は、空中を飛んでいた。肋骨が、折れなかったのは幸運だった。



 実は、今年の夏に、真沙子ちゃんに腕相撲を挑まれた。大人げなくむきになってしまった。幼稚園に就学期の幼女に、男子として負けてはいられない。全力を出した。

技術の勝利で、二勝零敗という戦績だった。僕が、いけなかった。負けてやればよかったのだ。真沙子ちゃんが泣きながら全力を出してしまった。右手の骨を折る重症を負った。最近の医学の、再生医療技術の優秀さに助けられていた。短期間で、快癒していた。だが、彼女が怪力なのだということを思い知らされていた。五歳の少女だと、あなどってはならないのだ。


 少女でも、筋肉そのものの出来が、男と女は違う。来るべき第三次性徴に対応するために、筋肉も骨格もゴリラ並の潜在力がある。そう思って、付き合うべきだったのだ。担当してくれた、整形外科医の美人女医に注意された。彼女は、肩からタオルで右手を釣った僕の70キログラムの体を、掌の上に乗せていた。まるで重さのない人形であるかのように、にこやかな笑顔のままで、軽々と上下させていた。

「五歳の女の子でも、成人男性を鯖折りにできるでしょうね。あなたは、猛獣と遊んでいるのよ。そのつもりで、いてね」

 忠告してくれた。


それなのに、またしても僕に油断があった。




3.大ママごと


「痛〜い!!」

 真沙子ちゃんは、赤いワンピースの襟から手を入れて胸を撫でていた。女の子の乳首は、いくら大きくても急所なのだ。神経が集っている敏感な場所である。そこを殴ってはいけないというのは、いくら弱い男の子でも知っていて、守っていることだ。攻撃の禁忌だった。それを僕は侵犯してしまったのだ。

「ごめん」

ごほごほ。衝撃に咳込みながら謝っていた。

「だあめ!許してあげない!!もう、徹底的にやっつけちゃうから!覚悟しなさい!」

 顔が赤くなって、目が釣り上がっていた。赤鬼のように怖かった。彼女が本気になったら、とても立ち打ち出来ないだろう。


ぐい!


手首を掴まれていた。凄い力だった。重心が崩れていた。叢に引きずり込まれていた。

「何をするんだ?」

「しっ!」

今度は、口を塞がれていた。

「大きな声を出さないでよ。ここは、ママの部屋の真下なのよ。聞えちゃうじゃない!」


 僕は、上空を見上げていた。本当だ。四階建ての団地が頭上に高層ビルの壁のように聳えていた。でも、青い草が自然の天蓋を作っていた。中からは外が見えても、外からは見えない。そんな場所だった。


 この自然の隠れ場所のようなところに、真沙子ちゃんは、いろいろなものを持ちこんでいた。この団地は、空き家になっている部屋が多い。そういうところは、前の人が引っ越した後でも、鍵をかけないで、そのままで放置されていることがあった。子供の遊び場所になっていた。

 「人食い団地」には、肝試しだとして、僕も子供の頃に忍び込んだことがある。前に済んでいた人の家財道具などが、捨てられずに部屋の中に散乱している場所もあった。そういうところから、集めてきたものなのだろう。使われなくなった男性用の食器などが、これも男性用の畳二枚分の上に、整然と並べられていた。

 何となく分かった。ここは、真沙子ちゃんの「おママごと」の部屋なのではないだろうか?

僕は、真沙子ちゃんとその場所の前に立っていた。真沙子ちゃんが、最初に靴を脱いでその上にあがった。さっきの剣幕は、どこへ行ったのか。にこやかな顔をしている。それが、かえって不気味だった。


「あなた、お帰りなさい。お仕事、疲れたでしょ?」


三つ指をついてお辞儀をしていた。胸の深い谷間が奥まで覗けた。ピンク色の乳輪が、ちらりと見えた。温かそうだった。

「ただいま」

僕は、素直に話をあわせることにした。

真沙子ちゃんが、正座なので、それにならった。

「お風呂にする?ビールにする?」

「それじゃ、ビールで」

「粗茶ですが」


 彼女は、僕に空のガラスのカップに白い綿をつめて、出してくれた。ビールの泡のつもりなのだろう。それを、ごくごくと呑む振りをした。

「いやあ、やっぱり。ビールは、泡が旨いね」

僕は、そう答えた。

「今夜もステーキよ。人造肉ですけど、精がつくようにレアにしました」


 なんとなく、おかしかった。僕は、真沙子ちゃんの目を通して、ある日の仁内家の食卓の情景を盗み見しているような気分だった。たぶん、恥らうような流し目も、矩香矩香さんの忠実すぎるような形態模写なのだろう。僕は、友則先生になっているのだ。くすぐったかった。


泥の団子が出た。

 ぱくぱく。

食べる振りをした。


「ごちそうさま」

 真沙子ちゃんは、押し黙ったままだった。きらきらする瞳で、僕を見つめている。僕も、じっとしていた。


「何してるのよ!今度は、お兄ちゃんの番でしょ!?」

「ええと、何をすればいいのかな?」

「バカな事、言わないでよ。夫婦が家に帰ってきたのよ。することは、ひとつでしょ」

「え?何かな?」

僕は、胸がどきんとした。

「キスよ!」

真沙子ちゃんが、自信に満ちた表情で断定していた。ワンピースの大きな胸を張っていた。

「この部屋に、男性を入れるのは、これが初めてなのよ。女を。待たせないでちょうだい!恥をかかせないで!」


 夫婦の部屋に、男を入れるのは初めてと言うのは、ちょっと理解しにくい設定だ。いきなり不倫の現場なのだろうか?しかし、これは、たぶん日常の景色ではなくて、昔の恋愛映画か何かを見た時の記憶なのだろう。


やがて。

 彼女が、僕を抱き締めていた。真沙子ちゃんの方が、僕よりも少し大きい。どうしても、受身の状況になる。唇を求めてきた。突き出していた。蛸のようだ。僕は、吹き出しそうになりながら、彼女の口に、軽く口をつけた。ここで、拒否したら、少女の気持ちを、傷つけるような気がした。これは、「おママごと」に過ぎないのだ。

 しかし、真沙子ちゃんの「おママごと」は、なかなかハードなものになっていった。彼女の方から、僕の唇を嘗め回していた。固く口を閉じていた。舌を挿入しようとしてきた。最初は、拒もうと思った。しかし、鼻の頭を啄まれていた。穴も、薄い舌先を挿入されて、ぺろぺろと舐められていた。くすぐったくて、笑ってしまった。口を開いた瞬間に、挿入されていた。彼女の舌の力は強い。僕を抱き締めた腕の力も同様だった。熱い鼻息を吹きかけられていた。


 困った事がある。彼女の赤の薔薇柄のワンピースの下で、当然、ノーブラの巨大な林檎大の乳房が、僕の胸にあたってくるのだ。服の上から見ていた時よりも、かなりの量感があった。弾力をもって、僕の身体を押し戻そうとしてくるのだ。大人のように乳腺がない。脂肪だけだ。お相撲さんのようなものである。かなり固かった。それが、ずんずんと僕の胸を押してくる。左右の乳首を感じていた。

それに、少女のミルクと果実の混じったような甘い口の匂いが、僕を興奮させていた。僕は顔が熱かった。火照っているのだ。軽くぺろりと突き出した唇を、真沙子ちゃんに吸われていた。頭が、ぼんやりとしてきた。全身に力が入らない。一箇所を除いては。あそこだけは、びんびんに力んでいた。


「お兄ちゃん、可愛いわ」

 ジーンズの股間に、男性としての明白な変化があった。彼女の体から離そうとした。しかし、真沙子ちゃんも、僕の変化を、敏感に感じ取っていた。

「お兄ちゃん、これは何なの?」

ジーンズの上から、性器を撫でられていた。

「あ、それはね……」

口ごもっていた。


「真沙子、何でも知っているのよ。子供だからって、馬鹿にしないで」


 その通りだった。五歳の女の子の知能指数の平均は、旧世界では十歳のそれに匹敵すると言う。精神年齢は低くても、知能はもう幼児とは言えないだろう。彼女は、僕の口元から数センチの距離にある唇から、甘く熱い吐息を吹きかけていた。

「おちんちんって、いうんでしょ?」

 五歳の少女の唇から放たれた淫らな言葉は、僕のハートを直撃した。あそこもだった。びくん。一気に、頭をもたげていた。


そして。


「これ、男の人が気持ち良くなると、固くて大きくなるんでしょ?」

「うん」

僕は、降参の状態だった。


「それじゃ、お兄ちゃんは、真沙子に抱かれて気持ちいいの?」

「そうだよ」

「ねえ、真沙子のこと、好き?」

「好きだよ」

「愛してる?」

「愛してるよ」


 成行きだった。僕は自分でも、何を言っているのかわからなくなっていた。眼前にアップになっている美しい黒い瞳と赤い口に、催眠術にかかったような気分だった。蛇に睨まれたカエルと言うのは、こういう気分なのだろうかと思った。


「ねえ?」

 彼女は、僕のジーンズの股間の膨らみを撫で回していた。下から上に撫でていた。男性自身の裏側を、絶妙な力加減で刺激してくれていた。乳房を、ぐりぐりと回転させるように、僕のTシャツ一枚の胸に押しつけてきた。股間が厚くなってきた。ブリーフの内部を擦りながら、肉の筒の先が、腹の方に伸び上ってくる。

 真沙子ちゃんは、ジーンズのベルトを緩めていた。僕は、真沙子ちゃんに背後から抱かれていた。彼女の長い手足が、僕の四肢に絡み付いていた。蜘蛛の巣の虫のように身動きできなくなっていた。ジーンズの前に侵入してきた指が、僕の下腹を撫でていた。指先でくすぐるようにしていた。


「お兄ちゃんも、生えているのね?」

陰毛を引っ張られていた。ブリーフのゴムの束縛を、掻い潜った彼女の指が、僕のペニスに触れていた。

「ねえ、あたしのお口に、出させてあげましょうか?いいのよ。お兄ちゃんなら……」

 僕はペニスの先端から、先走り液が大量に滴るのを感じていた。それを、真沙子ちゃんの指先が、僕にぬるぬると塗りつけていた。

「…固い。太い。…私の手の中で、びくん。びくんって。脈打っている。生きているのね? 面白〜い!」


ぎゅ〜っ。

先端部分を指の間で、きつく握り締められていた。

「痛い!」

叫んでいた。

「あ、ごめんなさい。力の加減が、まだ分からないところがあるの」

真沙子ちゃんが、謝ってくれていた。

 身体が震えていた。爆発寸前だった。やばかった。このままだとパンツの中に、大量の精液を放出してしまう危険性があった。



4.ミルク搾り


「ねえ?」


 真沙子ちゃんは、僕の耳に熱い息を吹きかけていた。僕の右手を取った。肩まで持ち上げさせていた。背後から、親指の先端に、ちゅっとキスをしていた。それから、ぱくり。親指全体を呑み込んでいた。少女の口腔の粘膜の、滑らかな温もりを感じていた。彼女は、顔を前後に動かしていた。赤いワンピースが激しい動きに、しどけなく形を崩していた。乳房が乳首まで顕わになっていた。ゆらゆらと重く踊っていた。

 真沙子ちゃんの瞳だけは、ひたと僕の目を凝視していた。首が長い。僕は、ぐったりして草の上で脱力してしまった。真沙子ちゃんに、完全によりかかっている。僕の顔を見下ろしていた。濡れたような瞳が、きらきらと光っていた。スーはー、すーはー。熱い鼻息を手の甲に感じていた。

「ああ」

僕は、うめいていた。休息に興奮が高まっていた。

僕の声に合わせるように、

「あああ〜ん」

と、真沙子ちゃんも僕を口に含みながら、声を上げていた。ペニス全体が震動していた。真沙子ちゃんは、僕の膝の裏側に両手をあてがっていた。腰が持ち上げられていった。そのまま、お尻の穴を舐められていた。


「だめだよ。そんなとこ。汚いよ」

 真沙子ちゃんは、耳を貸してくれなかった。睾丸も飴玉のようにしゃぶられていた。太腿の付け根を、ゆっくりと舌で愛撫されていった。僕は、震えていた。そんなところにも性感帯はあるのだ。僕は猛り立った肉棒の先端の割れ目から、先走り液を、とろり、どろりと浸出させていた。性器の体積の増加に皮膚が追いついていかない。ひっぱられている。痛いほどに、ふぐりが固くなっていた。


ばくり。

また、ペニスの根元までが飲まれていた。

きゅ。肛門が収縮した。睾丸が硬くなっている。ペニスの根元が緊張していた。

「ああ、だめだ〜。出ちゃうよ〜」

 僕は、渾身の力で彼女の顔を、急所から引き剥がしていた。彼女も従ってくれた。唾液が、僕のペニスから正子ちゃんの口に糸を引いた。

真沙子ちゃんは、片手でペニスを五本の指で扱いていた。情けない声を上げながら、ジーンズの下のブリーフの中に、僕は射精していた。


どぴゅう。

一度、噴射すると、もう止められなかった。

どぴゅう。どぴゅう。

濃厚な精液は、次々と噴射されていた。睾丸から尿道の壁を激しく刺激していた。

がくがく。

 僕は、自分の体重を支えていられなくなっていた。全身を震わせていた。身体を捩って、真沙子ちゃんに、しがみついていた。赤いワンピースの胸の谷間に顔を埋めていた。幼女の汗が溜まっていた。彼女は、そんな僕を抱き占めていた。あやすように、自由な方の手で、背中を、ぱたぱたと手で叩いてくれていた。精液を受けた掌を、ぺろぺろと舐めていた。蜂蜜を見つけた熊の子供のような満足の笑顔だった。

「いいのよ。男の子は、そういう風に身体ができているの。ためていないで、全部、お姉ちゃんに、出しちゃいなさい」

精液は、とろりと肉棒の周囲にまで滴り、流れ落ちていた。

「えらいわ。いっぱい出したのね」



僕は、草の上に寝かされていた。

「どれぐらい出たのかしら?お姉ちゃんに、見せてちょうだい」

ジーンズに、手を掛けられていた。

「いいよ、いいよ」

「いいから、おとなしくしていなさい」

ばしん。僕の手を真沙子ちゃんの手が軽く払った。軽くなのに、鞭で打たれたような、びちんという衝撃があった。手の指先までが痺れていた。

ブリーフまで下されていた。熱いペニスに、風が冷たかった。


「まあ。いっぱい出したわね。おりこうさん」

草の上に仰向けに寝かされていた。真沙子ちゃんのポニーテールの黒い頭が、僕の股間に下がってきた。熱い吐息を感じた。

それから、ぱくり。

今度は、本当に汚れたペニスを含まれていた。

ペニスを手で扱かれていた。尿道に残っていた精液まで搾り出されていた。

ちゅううう。

先端の穴を吸われていた。残らず吸い出されていた。

ぺろぺろ。

僕が排泄した汚液を全部、舐めとられていた。呑まれていた。陰毛の中まで掃除されていた。


べろべろ。

肉棒を垂れ下って、蟻の戸渡りの奥に垂れた分まで呑まれていた。肛門に舌先が達していた。


「濃いわ。苦いぐらい。お兄ちゃん。元気ね、おいしいわ」

誉められていた。どうして、真沙子ちゃんは、男の精液の味の違いを知っているんだ。


 ブリーフを汚した分も、ていねいに繊維の間まで、すするようにして舐めとっていた。赤いワンピースの胸元に、真沙子ちゃんは、自由な方の手を入れていた。巨乳を揉みほぐしていた。乳首を指先に摘んで、ぎゅうっと長く伸ばしていた。



その時。



「真沙子。ご飯よ!!」

大きな声が、秘密の花園全体に響き渡った。

 真沙子ちゃんが、僕の股間から、電気に弾かれたように、顔を上げた。跳び退った。手の甲で涎を拭っていた。飛び退った。赤い薔薇の花柄のワンピースの乱れた胸元の形を整えていた。

「このことは、絶対にママには、秘密よ! 続きは、また後でしましょうね。バラしたら、してあげないわよ!!」


僕は釘を刺されていた。




5.美人妻 矩香


「真沙子、そこの花壇の中にいるんでしょ?スパゲッティが、延びちゃうから、早く上がって来なさい!!」

「ママ〜!!」

真沙子ちゃんが、草薮から出て行った。僕も、慌ててパンツとズボンを上げていた。


「コリンのお兄ちゃんが、いるんだけど、いっしょに朝ごはんを食べてもらってもいい〜?」

僕も、仕方がないので後に続いた。腰がふらふらする。

 仁内矩香さんは、僕に、にっこりと微笑していた。二階のベランダから、庭を見下ろしていた。

真下から見上げているせいもあるのだろう。ひどく巨大に見えた。真沙子ちゃんは、いくら大柄でも、僕達、男性と同じサイズだった。二倍体の巨人がそこにいるのだ。矩香さんの身長は、3メートル60センチを越えているだろう。それに見合った声量があった。スリーサイズは、歴史同好会の会員の調査によれば、上から215−120−192ということだった。堂々とした体格である。

 しかも、矩香さんは、目立つかっこうをしていた。白い襟の高いブラウスだった。胸のボタンを二つ、大きく外している。腰は、蜂のようにくびれていた。それが、逆にお尻の大きさを強調していた。タイトな身体に、ピッタリとあった生地がはちきれそうだった。真下からの視点なので、股間に赤い下着がはっきりと覗けた。彼女は、僕に見られたことで、片脚を前に出していた。腰を僅かに捻り、女性らしい曲線が一番、はっきりと分かる態勢を取っていた。モデルのようだった。意識しているのは明らかだった。僕は、目線を落していた。今、柔らかくなったばかりなのに、ペニスがまた、むっくりと頭を擡げていた。


「いいわよ。あがっていらっしゃい。準備はできてるわよ」

それが、矩香さんの答えだった。


 初期の公団住宅には、女性用の階段しかない。第三次性徴を迎えた女性だけしか、住まないという前提だったのだから、仕方がない。それが男性や子供と言う家族も同居することで、各棟の端の部分にエレベーターがついた。これは、逆に女性は乗りこめない。いわゆる「男子供(おとこども)」専用と言う奴だった。僕は、それに乗った。

 真沙子ちゃんは、段差50センチの階段を、二階まで走って上ると言う。エレベーターのドアが、完全に閉ったところで競争になった。二階である。そんなに時間は経っていない。踊り場で、真沙子ちゃんが、涼しい顔で待っているのには、驚いてしまった。汗もかいていない。


僕の腰の軽い感覚は消えなかった。

僕は、別に直接にペッティングをされたわけでもない。ただ、親指を舐められただけだ。真沙子ちゃんの視線の催眠的と呼んでいい力もある。でも、たったそれだけで、いかされていたのだ。情けなかった。五歳の女の子の手練手管に、ひっかかって陥落したのである。


 公団の鉄製のドアは、左下の4分の1の部分だけが、別個に開くつくりになっている。ここが、「男子供」の出入り口になる。なんとなく犬や猫のドアを連想させる。あまり、好きではない。ちなみに、この「男子供(おとこども)」という言葉も、普通に使用されているが、好きではない。差別を感じる。

ともあれ、矩香さんは、団地の鉄製の重い扉を開いて、僕達を迎え入れてくれた。僕達は、彼女の腕の下をくぐって、玄関に入った。僕の身長ぐらいは優にある、革のブーツが2本、まるで門番のように玄関に立っているのが印象的だった。すっぽりと中に入ってしまいそうだった。

靴箱の上の壁に、インドで発掘現場の立体写真が飾ってあった。撮影場所は、古代遺跡のヒロバだった。仁内先生の日焼けした顔が、青空の下で笑っている。手を振っている。この写真には、いつも、慰められる。


「ちらかしていて、ごめんなさい」

 矩香さんは、いつも、そう謝る。けれども、室内はいつも整理整頓が行届いていた。「その人にあった環境の、お部屋じゃないとね」というのが、矩香さんの持論だった。


「ママ馬さんして!」

真沙子ちゃんが、ねだっていた。

彼女は、おかあさんの脚にしがみ付いていた。足の甲に片足を乗せていた。

「コリンお兄ちゃんも、こうするのよ!」

「僕は、いいよ」

「いいの、するの!」

 矩香さんの足元で、揉み合いになっていた。彼女の力の方が強い。手をもって、ひっぱられていた。矩香さんの膝小僧にぶつかりそうになっていた。しがみついていた。


「そうそう。できるじゃない」

 真沙子ちゃんの得意そうな声がした。僕は、目を閉じていた。この位置からでは矩香さんのミニスカートの下が、ばっちり見えてしまう。目を開いてはいられなかった。

「それじゃ、いくわよ。しっかりと、捕まっていてね」

上空から矩香さんの優しい声が降ってきた。

「ママ馬、発進!」

真沙子ちゃんの声が、隣でした。


それから。


「よ〜いしょ」

 真沙子ちゃんの乗った方の脚が、空気を掻き回しながら、上昇していった。風の動きでそれを感じた。

「ほうら。高い。高い!しがみついていないと、落ちますよ〜」

「きゃあああ!」

 真沙子ちゃんの歓喜の悲鳴が聞えた。僕の乗った脚の筋肉が、矩香さんの膨大な体重を片脚で支えるために緊張していた。鋼鉄のように固くなっていた。ああ。でも、僕が彼女としたいのは、こんな子供の遊びではないのだ。そのまま、一瞬の間があった。

そして。

どし〜ん。

びりびり。

 片足が、床に着地した震動を、直接に骨に感じた。手足が、びりびりと、しびれるほどだった。

ぎゃはははは。

真沙子ちゃんが、豪快に笑っている。

「今度は、コリン君の番よ〜。ママ馬、発進しま〜す。しっかり、捕まっていてちょうだい」

僕がしがみ付いた脚が、上昇していった。床と水平の角度になっていることが分かった。

一歩前に進みながら、脚が下されていた。

どし〜ん。


 この連続で、ママ馬は、僕達二人を乗せて玄関からキッチンへと進軍していった。遊園地のちょっとしたアトラクションぐらいのスリルはあった。


部屋の空気には、真沙子ちゃんと同じく、甘いミルクの香がした。

ママ馬遊びが終った。


「スパゲッティが延びてしまうから」

 真沙子ちゃんが焦って、僕をキッチンのテーブルに案内していた。時間を使ったのは、そっちじゃないかと思った。テーブルの中央には、ヒメコスモスが花瓶に活けられていた。庭から摘んで来たのだろう。僕の好きな烏賊と鱈子のスパゲッティが、皿の上にピンク色の山になっていた。

矩香さんのミニスカートは生地が薄い。その上、お尻の割れ目に食いこむような、V字型のパンティの赤い生地が、透けて見えていた。200センチメートルは、ありそうなヒップが、左右に重そうに揺れていた。僕は、股間の緊張が解けなかった。

ママ馬の間は、脚にしがみついていた。それを素足の皮膚で感じ取られたかと思っていた。矩香さんは、とても敏感な女性だったのだ。


 キッチンのテーブルは、矩香さんたち、第三次性徴世界の女性サイズになっている。表面の板の高さが、僕達にとっては首ぐらいの位置に来る。男性と子供用の椅子には、上に登るために平均、数段の梯子がついている。それを登った。長方形のテーブルの短い方の一方の端に、矩香さんが座った。長い辺の矩香さんに近い方に真沙子ちゃん、その隣に、僕が腰を下した。

テレビでは、子袋という男性二人のグループが、『永久に子宮に』という、最近のヒットソングを唄っていた。このごろ、生活に疲れた若者達の間で、女性の子宮を借りて胎内に短期間滞在すると言う、新しいリラクゼーションの方法が流行していた。うつ病などには、明らかに効果があるという。子供は生みたくないが、妊娠は経験したいという若い女性の間で、静かなブームになっていた。「子宮ホテル」とも呼ばれていた。

しかし、食事の前には消された。仁内家は、躾が厳しいのだった。


「いつも、真沙子と遊んでくださって、ありがとうね。感謝しているのよ」

矩香さんは、深く頭を下げてくれていた。アイス珈琲を僕に出してくれた。

「いいんです。深夜から朝番のバイトが終れば、今日は、大学も休みです。後は、下宿に帰って寝るだけですから」

「いつも、本当に感謝しているのよ」

繰り返していた。

「仁内が、インドに調査旅行で不在でしょ。強い子だから、泣き言は言わないけど、辛いと思うの。それに、幼稚園にも、行っていないでしょ。午前中は、遊び友達がいなくて、どうしても、さびしいらしいのね。今日も、お兄ちゃんが来るからって、朝から落ち着かなくて。朝からお庭に下りて、ずっと待っていたんですものね?」

「ママ、家庭の事情を、そこまで、あからさまに言わなくても、いいって」

真沙子ちゃんは、恥かしそうだった。口にスパゲッティを詰めこんだままで、もごもごと弁解していた。


そうだったのか。


偶然ではなかったのだ。僕は、暖かい気持ちになっていた。さっき庭で、真沙子ちゃんが言った事は、完全に「おママごと」の遊びと言うことだけでも、なかったのだ。



6.おっぱいの時間





 真沙子ちゃんは、眼前の山盛り2キログラムのスパゲッティを、あっという間に、平らげてしまった。矩香さんの方は、その倍はあったと思う。10キログラムはあっただろうか。矩香さんの手元の水を入れたコップは、1リットルは入る容積がある。赤い山は、もう皿の白い底をのぞかせるようになっていた。
僕の方は、フョークの動きが止っていた。二人の女性の食いっぷりを見ているだけで、胸が、いっぱいになってしまった。

「お兄ちゃん。もうごちそうさまなの?」

 真沙子ちゃんが、横目でちらりと僕の皿を見ていた。

「それ真沙子、もらっていい?」

 瞳が、きらきらとしていた。

「これ、真沙子。お客様の前で。お行儀が悪いですよ!」

 矩香さんに窘められていた。

「すみません。残していいですか。おいしいんですけど、僕には量が多くて……」

 バイト先で、朝ごはんをご馳走になってきたからと、弁解した。実際は、ハンバーグの残りを、ひとかけらだけ口にしただけだった。

 真沙子ちゃんは、僕とおかあさんの許可を得てうれしそう食べ始めた。それも、あっという間に食べてしまった。

「食べない子は、大きくなれませんよ」

 矩香さん、そっくりの口調で、僕を嗜めていた。苦笑するしかなかった。僕は、もう十八歳だ。これから、大きくなるにしても、ほんの数センチだろう。真沙子ちゃんとは、勝負にならない。

「ごちそうさま」

 自分の椅子から、どしんと台所の木の床に飛び降りていた。手の甲で、ほっぺたについたトマトケチャップを拭っていた。とことこと、お母さんの足元に駆けていった。

「ママ。おっぱい」

 矩香さんの脚は、膝から下だけでも90センチメートル以上は優にある。膝小僧に両手をついて跳び箱のように、太腿の上に飛び乗っていた。

「あらあら、今日は、お客さまがいるのよ」

「いいの!」

真沙子ちゃんは、矩香さんのブラウスのボタンを上から外し始めていた。

「ごめんなさいね。真沙子は、いつまでも、あまえんぼさんなのよ。五歳になるのに、まだ、おっぱいの習慣が取れないのもそのせいね」

僕に対して遠慮しているのだ。頭を下げていた。どう答えればいいのか分からなかった。真沙子ちゃんに、やめろと要求することもできない。

「いいの!」

真沙子ちゃんの両手が、白いブラウスの襟を大きく強制的に広げていた。肌色の胸元が、顕わになっていた。ミルクの甘い匂いが、ぷんとした。ブラは肩紐が目立たないように、透明なストラップになっていた。背中のストラップも細く出来ていた。矩香さんは、授乳中でも、それなりに身だしなみに気を遣っているのだった。

それから、マタニティ・ブラジャーのフロントホック・ボタンを、ぷちんと外した。吸水性の良いコットンの素材だった。カップは片方だけが、外れるようになっていた。内部の母乳を吸収するパッドは、交換が可能になっているようだ。ぼろんという感じだった。矩香さんの巨大なおっぱいが、はじけるように飛び出してきた。肉のスイカという感じだった。球体になっている。

矩香さんは、キッチンのテーブルに座ったままだった。ごとごと。巨大な椅子を動かして、簡単に角度を斜めにしていた。身体を横にしていた。正面からの僕の視線を避けたのだろう。しかし、そのせいでかえって威風堂々とした、おっぱいの威容が強調されていた。椅子に座っている僕の視線からは、やや見上げるような角度になるので、なおさらだった。

真沙子ちゃんが、ばくりと加えた乳首の部分以外の、優に普通のスイカ一個分以上の体積のある乳房の、雄大な肌色の側面からの形が、はっきりと見えた。膨らみの全容が明瞭になっていた。


こくん。こくん。

真沙子ちゃんの喉が、動いていた。呑むほどに、彼女が蕩けていった。さっきの「おママごと」の時の大人びた表情からは、まるで想像もできない。口元も目元からも、力が抜けていた。巨大な乳房を抱える指の無心な表情も、かわいらしかった。短くて、ふっくらとした指だったのだ。赤ちゃんの表情になっていた。それだけ彼女にとって、至福の時間なのだろうと思えた。



 窓の外から、元気な声がした。

「真〜沙〜子〜〜ちゃア〜〜〜ん。あ〜〜そ〜〜ぼ〜〜」

 午前中は「学校区」の幼稚園に行っていた、愛撫好子ちゃんや永澤雅美ちゃんが帰ってきたのだろう。あの透きとおった声は、永澤雅美ちゃんだろうか?

 しゅっぽん。

 音を立てて、真沙子ちゃんの口が乳首から離れていた。白濁した涎の糸を引いていた。

「は〜あ〜〜い〜〜。今、行くからあア〜!!」


 大きな口を開けて叫んでいた。僕の耳が、じ〜んとしびれるような音量だった。

 矩香さんの膝の上から、器用に床に飛び降りていた。テーブルの上のガラスのコップを取った。口の中で、もにょもにょと口を漱いでいた。彼女なりに、乳の匂いを消そうとしているのだろう。

 真沙子ちゃんが、お皿に残っていた福神漬けを口に含んだ。
 そのまま、外に飛びだして行ってしまった。僕には、何の挨拶もなかった。

「真沙子、行って来ますは?」

「行って来ま〜す」


 返事は、外の通路から聞えた。矩香さんは、胸元を片手で押えて歩いていくと、開け放たれた団地の大きな鉄製のドアを、ばたんと閉めた。カチン。鍵を閉める金属製の音が響いた。


「あ、僕も、そろそろ帰りますから」

「いいじゃないの。もう少し、居てちょうだい。真沙子も夕飯時になれば、帰ってくるから。そのときには、何か、店屋物を取ってあげるわ」

 矩香さんは、そう言ってくれた。しかし、真沙子ちゃんが、いなくなってしまうと、他に何を話せばいいのかという適当な話題も見つからなかった。


キッチンの時計は、まだ一時を少し回ったばかりだった。夕飯を六時だとしても、まだ五時間もある。矩香さんと、そんなに話すことがあるはずもなかった。

矩香さんが、キッチンの椅子に座り直していた。無造作に脚を組んでいた。


「今日は、なんだか蒸すわね?」

 大胆に脚を開いていた。ミニスカートの中の赤いパンティは繊細なレース製のだった。もっこりと盛り上る股間を覆う、ダイアモンドの形の生地の部分だけが、他よりも厚かった。そこから、黒い縮れた陰毛が、数本ずつ左右にはみ出していた。そして、赤い布が一部分だけ、さらに濃い紫に近い色に変っていた。矩香さんが感じているのだ。

そこの肉が、ぐちゅぐちゅという感じで動いた。おばさんの体臭が濃くなっている。それに呼応して、僕の一物も、びくんびくんと脈打っていた。雄の肉が、休息に回復していた。巨女の大量のフェロモン分泌に影響されているのだった。

これを恋と呼んでいいのだろうか。僕には分からない。単に、生理的な反応なのかもしれない。種族維持の本能が、生殖の相手を求めているだけなのかも……。

「あ、でも、僕、帰ります」

 いざ、その場になると、どうしても躊躇ってしまう自分がいた。自分の気持ちを、どう表現していいのか分からない。行為の後のせつなさが厳しかった。真沙子ちゃんが、去年まで使っていた赤ちゃん用の椅子の前に備え付けの、三段の梯子を慌てて降りていた。

「いいじゃないの。そんなに、慌てて帰らなくても。それとも、何か予定があるの? 彼女とデートとか?」

「ないです。そんなこと」

 即座に否定していた。

「じゃ、ゆっくりしていってちょうだい」




 それから、矩香さんに高校時代の「歴史同好会」の仲間達の動向を、一人一人質問されていた。各地の大学に、ちらばっている。地元に残っているのは、僕だけだった。断片的な情報でも、矩香さんを喜ばせていた。彼女が、みんなの名前と顔を、一致させて記憶している事が、良く分かった。

僕の方からも、仁内友則先生の、発掘現場での調査状況を尋ねていた。

「私も、いろいろと国家機密とかいうのがあって、それほど、詳しく聞かされていないだけれど……」

矩香さんのフォークの手が止った。

「仁内は……」


先生は、いつも旦那さんのことを姓で呼んでいた。自分も、結婚して同棲を選択したのだから、不思議な感じだった。旧姓は、確か不二原とかいった。


「今度の発掘で、第三次性徴世界の秘密に迫る大発見があると考えているようね?」

「そう、うまくいきますかね?」

矩香さんが、うっとりしたような目つきで、僕を眺めていた。ああ。僕は天にも昇るような気持ちだった。

「コリン君の、そのうたぐり深い目付きが、好きよ。私にも、そんなに上手くいくとは、思えないわ」

僕のコップに水を注いでくれた。

「いつも思っていたんだけど、あなた、目が綺麗なのよね。睫毛が長くて。黒い瞳孔が、見る角度によっては紫色みたいな深い色をしている。それに、肌もキメ濃やか。異性としても羨ましいぐらいに、まっ白」

僕は緊張して座っている事しかできなかった。


それから。

「あなたたち、歴史同好会の面々が、この部屋に遊び来て、仁内と真剣に議論を戦わしていた頃が、一番、幸せな時代だったかもしれないわね」

 矩香さんは、遠い目をしていた。ため息をついていた。なんだか、さびしそうな表情だった。この人の寂しさを慰めてやりたいと思う。もっと幸福になって欲しいのだ。海外に飛びだしている先生を、勝手だと思うときがある。少なくとも、もっと頻繁に、連絡をとるぐらいはしてやったらどうだろうか。




7.母乳に溺れて


矩香さんが、脚を組み直していた。

「コリン君て、優しいのよね。主人が不在の間も、いつも、うちの真沙子と庭で遊んでくれて、感謝してるわ」

「あ、そ、そんなこと、ありません」

むしろ、僕の方が、遊ばれているのではないだろうか?口には出せなかったが。

「その優しいコリン君に、おばさんからも、ひとつ。お願いがあるんだけど。いいかしら?」

「なんですか?」


 僕に出来る事でしたらという言葉を飲みこんだ。矩香さんが、胸元のブラとブラウスを直さない。今日は予感がしていたのだ。軽い口約束はしない方がいい。それは、仁内先生からも頼まれている「できること」である可能性が高かったから。

仁内友則先生は、「男に二言はない」という教訓を叩き込んでくれていた。口にしたことは、なされなければならない。できないのであれば、口にしてはならない。言葉とは厳しいものだと言うことだった。

「悪いんだけど、おっぱいを飲んでくれないかしら?真沙子が、中途半端にするので、張っていたいのよ」

 やっぱりだった。予感は当った。

 矩香さんが、手を外した。半球形の完璧な形をしたおっぱいが、ぼくを正面から見つめていた。肉の砲弾だった。中心に紫色をした乳首があった。その先端から、白い液体が玉をなして、今にも滴り落ちそうに揺れていた。


 ごくん。

 僕は、固い唾を飲みこもうとしていた。母乳は、男性の筋肉と骨格を強化すると言う、男性週刊誌の記事を読んだことがある。サッカーのスーパースターのジロウナニョー選手が、恋人の協力で、この食事療法を実行して、セリエAで得点王になったそうだ。強精剤の効果もあるという。


「いいんですか?」

 矩香さん。僕にとってあなたは、単に搾乳器なのでしょうか?それとも、それ以上の意味のある存在なのでしょうか?

「いいのよ。お願いするわ。ああ、痛い!」

 矩香さんは、乳房の上を反対側の手で撫でていた。おっぱいのしずくが落ちていた。

「はやくして!」

「は、はい」

 僕は、慌てて赤ちゃん用の椅子から飛び降りていた。テーブルを回って正面の矩香さんの席に走っていった。矩香さんが、上半身を傾けて来た。おっぱいが、地球の重力でずしりと垂れていた。押し潰されそうな迫力があった。乳首が、僕を威嚇するように勃起していた。

 僕の両脇に、矩香さんの手が入っていた。そのまま、空中に抱き上げられていた。ちょうど良い速度だった。子供を育てている母親だけある。慣れない女性だと、その加速度だけで眩暈を起す場合さえあるのだ。

「よいしょ」

 僕は、軽々と、矩香さんのミニスカートから出た太腿に乗せられていた。大木のような太さがある。付け根にいくほど太い。脚を開かなければならない。ジーンズ腰に体温を感じた。丸いので滑りそうだったが、矩香さんが僕の腰に片手を当てて支えてくれていた。安心していた。

 眼前に、おっぱいがあった。至近距離で見る、それは、もの凄い光景だった。おっぱいというような、可愛い名前で呼べるものではない。もっと動物的で、獰猛な器官だった。子供に授乳して育てるための、生物としての種族の保持にどうしても必要な器官だったのだ。それだけの重々しい存在感があった。ミルクの匂いは濃厚になっていた。それに野生の香もあった。たぶん、矩香さんの体臭だった。やばいと思った。ジーンズの股間が反応していた。しかし。

「お願い。コリン君」

 苦しげな声だった。哀願されていた。すぐ口元に乳首の先端があった。矩香さんが、乳房の下を手に持って位置を調節していたのだ。とろり。母乳が垂れている。もったいない。「母乳の1滴、血の1滴」という諺があるのだ。


 ええい。ままよ。なるようになれ!

 僕はいつも慎重な性格なのに、本番になると妙に度胸が据わる。無茶をすることもあった。

おまえ、よく、あんなことまでするな! …「歴史同好会」の仲間の評価だった。

 ばくり。

 乳首を咥えていた。僕の親指よりも太い。肉の塊だった。充血しているので固い。

 ああん。

 矩香さんの身体が、びくりと動いた。ぶるん。乳が揺れた。真沙子ちゃんの時よりも、敏感に反応しているような気がする。

そうです。矩香さん。ここにいるのは、子供ではないのです。あなたに、好意を抱いている男性の愛撫なのです。単なる授乳ではありません。

「…吸って。吸ってちょうだい」

甘酸っぱい吐息が、顔面に吹きかけられてきた。

ちゅうちゅう。

僕は、口に力を入れて遠慮がちに吸引していた。しかし、加減が弱いのかもしれない。力が弱いのかもしれない。舌の上に、ほのかに甘い暖かい液体を感じた。

「うふふ。それじゃ。くすぐったいわ。もっと、力を入れていいのよ」

 それでは。お言葉に甘えて。

 僕は、乳房を両手で抱えるようにしていた。

 白い皮膚の下に、青と赤の血管が走っている。熱かった。体温が高いのだ。脂肪の弾力の下に、固いものがあった。ぶつぶつしている触感がする。これが、乳腺なのだろう。母乳を作る場所だった。固くしこっている。乳が、溜まりすぎているのだ。左右から手のひらで押していた。さっきの真沙子ちゃんの様子を観察していた。こうしていたような気がするのだ。

第三次性徴期の女の子の体の仕組みに付いては、保健体育の時間に男子も学習する。しかし、実物の存在感は、圧倒的だった。

 じゅうじゅう。

「そうそう。それでいいのよ」


 眼前に、白い乳房の隆起があった。白い肉の斜面が頚骨まで続いている。胸の細い金の鎖が、肌の美しさを際立たせていた。こんなに大きいのに、染み一つない。白い顎の下が見えた。少し肉が付いているようだった。
矩香さんは、慈愛に満ちた表情で、僕を見下ろしている。目が細くなっているので、観音様を連想していた。母親の顔なのだ。

僕は、矩香さんの膝の上に抱かれながら乳房越しに、その表情を上目遣いに伺っていた。僕の視界のほとんどは、矩香さんのおっぱいが占領していた。その向こうに、矩香さんの顔が小さく見えた。


「コリン君、上手だわ」

誉めてもらって素直に嬉しかった。有頂天の気分だった。

「まだ。呑める? 味は平気かしら」

甘くておいしかった。僕は乳首を咥えながら、こくんと頷いていた。

「少し、搾るわよ」

 矩香さんの大きな手が、乳房を下から持つようにした。僕の手の力では、ほとんど表面をへこませることもできなかった固い肉の袋が形を変えていた。同時に、口の中に乳が迸っていた。

じょおおおおお。

 一度に、複数の穴から、乳が噴射していた。細い筋となって、口の中をくすぐっていた。僕は、それを、ごくごくと飲干していった。僕の力だけの時とは、段違いの出方だった。水道と消防車の放水ぐらい違う。大量だった。噎せないように口腔に溜めてから、徐々に食道に流し込んでいった。

「そうそう。コリン君。上手、上手」

また、誉められていた。嬉しかった。

 もう片方の側も同じようにしてやった。結局のところ、母乳を3リットル以上は飲んだような気がした。お腹が膨れて満腹に鳴っていた。


 矩香さんの片手が、僕の後頭部を包んでいる。ゆっくりと揺られていた。子守歌が聞えた。本当に赤ちゃんに、もどったような気分だった。

「おねんねしていいのよ。ママが、見ていて、あげましゅからね〜。安心してお休みなさい」

 あやされていた。小船に乗って、海の波に、ゆらゆらと揺られているような気分だった。瞼が重くなってきた……。


しかし。違うのだ。僕は、赤ちゃんではない。男だ。舌を使っていた。乳首の周囲に舌の裏側を回転させていた。

「あ、あ〜ん」

それまでとは違う、矩香さんの声がした。妙に、擦れていた。艶かしかった。

ぐいっ。

 凄い力で、後頭部を矩香さんの手で押されていた。顔が乳肉の内部に埋没していった。母乳が抜けた分だけ柔らかくなっているような気がした。ずぶずぶ。沈んでいく。苦しい。息ができない。

矩香さんに、非常事態を知らせようとした。何かがおかしかった。しかし、顔も動かせない。口腔いっぱいに、矩香さんの乳首が挿入されていた。話すこともできない。

熱かった。周囲の温度は、矩香さんの体温の世界だった。苦しかった。激しく揺れていた。船酔いのような気分になっていた。げぼ。今まで呑んだものを吐いていた。それが、また鼻に入った。苦しい。母乳に溺れていった。






8.秘密の花園


 まだ母乳が、お腹で、たぷたぷと揺れているような気がする。吐き気もあった。

でも、矩香さんに、真沙子ちゃんをお庭に迎えに行ってきてちょうだいと、命令されていた。僕は、全裸だった。せっかくの、矩香さんのお乳を吐いてしまった。取り返しのつかない失態だった。汚れた衣服を、洗濯機で洗われている。


ごおんごおん。

 洗面所の白い家ぐらいある全自動洗濯機が、まるで怪獣のような咆哮を上げていた。矩香さんは、冷たくて怖いような表情で僕を見下ろしていた。失態を犯したので怒っているのだ。白いエプロンをつけていた。でも、ちょっとした体の動きで、その下には何も身につけていないことが分かる。矩香さんも、自分の洋服を洗濯しているのだろう。

ごおんごおん。


「可愛い真沙子を連れて帰らないと、洋服は返してあげませんからね」

矩香さんに、きつく命令されていた。屈辱感があった。
この使命だけは、命に代えても果さなければならない。



 僕は団地の中の、朱色の焼き煉瓦を埋め込んだ道を、歩いていた。今は、何時なのだろう。腕時計も、携帯電話もない。時間がわからなかった。空は、赤く染まっていた。やっぱり夕方なのだ。

僕は、緑の庭園の中を歩いていった。左右には緑の草が伸び上がって壁を作っていた。四階立ての団地ぐらいのさがある。その向こうを、見ることはできなかった。いつのまに、こんなに大きくなってしまったのだろう。これでは、団地から出る道さえ見つけられないような気がした。心細かった。


「真沙子ちゃん、どこにいるんだ〜! いっしょに帰ろう!!」

叫んでいた。しかし、僕の声は緑の帳に吸いこまれるように消えていった。木霊も聞えない。駒鳥の声もなかった。あたりは、しんとしている。

 耳をすましていると、どこからか女の子らしい声が聞えてきた。真沙子ちゃんたちかもしれない。団地のこのあたりの棟で幼稚園生と言うと、彼女達三人ぐらいだった。

ちょうど、そちらの方向に行けそうな、朱色の小道があった。そこを曲っていった。正面は行きどまりの壁になっていた。蔦が覆い隠すように繁茂して板が、その中を手で探っていると扉があった。手で探っていると鍵穴があった。少女たちの声は、明らかに、その内部から響いてくる。しかし、鍵がない。困っていると、足先にこつんと触れる物があった。錆付いた鍵だった。穴に差込んでみた。ぴったりとあった。重い嫌な音を立てて開いていった。



 水音がした。消毒薬の塩素の香もする。僕は、今年の夏休みは、アルバイトで「学校区」にある円形の幼児用のプールの監視員をしていた。その時と同じ匂いだった。この団地に、プールはあっただろうか。小さな池があったような気がするけれど、あれは、もう使われなくなっていた。古い緑色の腐ったような雨水が、ぼうふらを浮べていただけだったはずだ。

しかし、それはあった。真沙子ちゃんたちが、水を跳ね返して遊んでいた。市営プールだった。

僕は、首から下げていた監視員の笛を吹いていた。

ぴりぴりぴりぴり。

「君達、今日は、もうプールはおしまいです。おうちに帰る時間です。そろそろあがりましょう」

「あ、お兄ちゃん」

真沙子ちゃんが、僕の方に顔を向けた。濡れた髪が背後に固まって張りつく様になっていた。

「どうして、こんなところにきたの? ここは、お兄ちゃんが来ていいところじゃないわ。危ないから、早く帰りなさい」

「お母さんから、真沙子ちゃんを連れてきてくれって頼まれたんだ」

「もう! 私、一人で帰れるのに。お母さんは、おせっかいなんだから!!」

真沙子ちゃんは、怒った時の癖で、ほっぺたを膨らませていた。

「ねえ、この子が、真沙子が「ミルク搾り」をしたっていう大学生のコリン君なの?」

 真沙子ちゃんの隣に、目鼻立ちのくっきりとした女の子の顔が浮かんでいた。たしか、永澤雅美ちゃんといったと思う。矩香ちゃんの家に遊びに来た時に、一緒に「おママごと」につきあったことがある。僕がバイトをしている時間に『ほかほか百舌屋』に、ハンバーグを買いに来てくれたことがあるのだ。

「え? あ、ううん、そうよ」

真沙子ちゃんは、困ったような顔をしていた。

「ふうん。可愛いじゃん。食べちゃいたいぐらい。色白なのね。大学生と言うことは、僕、いくつになるの?」

「あ、20歳です。もうすぐ21歳になります」

僕は、なぜか幼稚園生に敬語を使っていた。

「お姉ちゃんに、もっと顔を見せて頂戴」

プールから、雅美ちゃんの長い手が伸びてきた。僕は、プールの監視員に支給される、市営プールの市のマークが入った麦藁帽子を取られていた。

「けっこう。イケメンなのね。目が綺麗だわ。あたしのストライク・ゾーンかも」

僕は、首から下げた笛の紐を掴まれていた。ひっぱられていた。

「真沙子、あたしも、この子のミルクを搾っちゃっていい?」

雅美ちゃんの口から、びっくりするように大きな赤い舌が、ベロンと出てきた。赤い唇を舐めていた。

「ううん。それは、ちょっと困るかも……」

真沙子ちゃんが、困っていた。僕は助け舟を出すつもりで、精一杯、声を張り上げていた。両手を丸くして、口元にあてがっていた。

「君達、もうプールの時間は終りです。そこから出なさい!!」

大人としての威厳を示すつもりだった。

「出ていいの?」

雅美ちゃんが、おかしなことを言っていた。唇が笑っていた。

「でも、そうすると、僕が、困るんじゃないかしら?」

「いいです。出なさい!」

 僕は海水パンツの腰に手を当てて命令した。子供と言うのは、甘い顔をしていると、いつまでもプールに入っていたがる。唇が紫色になっていても出たがらない。それは、身体に良くない。休息を取らせる必要があった。

「お兄ちゃん。だめ〜!」

真沙子ちゃんが止めていた。

「それじゃあ…、出るわよ!」

 雅美ちゃんの白い2本の手が、プールの縁にかかっていた。それから、長い長い白い脚も、そこにかかっていた。

えっと思った。

足の位置が予想したよりも遠いのだ。僕は、その時になって、ここが子供用のプールではなくて、第三次性徴を迎えた女性用のプールだと言うことに気がついていた。

永澤雅美ちゃんが、身体を水から持ち上げていった。ざばあ〜ん。波が起った。プールの縁から溢れた。津波となって襲来していた。僕は塩素臭い水に濡鼠になっていた。口に入った。噎せていた。監視員の麦藁帽子が、水の上を流れていった。濡れた床に尻餅をついていた。

頭上から、大粒の雫が雨あられと降って来た。顔を上げていた。赤い夕焼けの空を背景に、青いスクール水着の少女の姿が、大きく大きく空に聳えていた。下から見上げているので、肌色の大木のような直径のある太腿が、圧倒的な量感のあるお尻を支えていた。股間が、もっこりと隆起している。青い下腹部は左右に広がっていた。

腰の細い細い砂時計のような曲線を、紺色のスクール水着の脇についた三本の白いラインが強調していた。彼女は両手を、くびれの左右にあてがっていた。その上に、贅肉のひとつもない、引き締った青いお腹があった。二つの胸は小山のように突き出していた。大きいだけではない。たっぷりとした量感がある厚みのある女体だった。健康な内臓が、内蔵されているのが分かる。ギリシアの美の女神ミロの像のようだった。あれが、スクール水着を着ているみたいだ。

乳房の山の遥か上から、永澤雅美ちゃんの化粧もしていないのに、目鼻立ちのくっきりとした小さな小さな顔が、笑顔で、僕を見下ろしていた。

幼稚園児の幼女ではなくて、第三次性徴を済ませた少女がそこにいた。僕は、ぽかんとして口を開いて、彼女を見上げていた。雅美ちゃんは、いつのまに、こんなに大きく成長してしまったのだろうか?



「さあ、出たわよ。次には、どうしたらいいの?おチビちゃん?」


 彼女は、ちょうど僕の上を跨ぐような位置に両足を開いて立っていた。巨大な身体から、滴る大粒の水が、なお雨のようにぼたぼたと降り注いでいた。生ぬるい水だった。お湯のようだった。雅美ちゃんの体温で、冷たいはずのプールの水が温まっているのだろうか?

「プールの時間は終りです。家に帰りましょう」

「もちろん、帰るわ。おチビに命令されなくてもね。泳いで、腹がすいちゃった! でも、その前に、ちょっとだけ、腹ごしらえをしていきたいわね」

彼女は額に片手をあてて、あたりをきょろきょろと見回すような振りをしていた。

「なにも、ないわねえ……」

それから、僕を見下ろしていた。

「ねえ、監視員さん。このプールには、軽食を食べさせてくれる場所はないの?」

「市営プールです。レストランとかの、娯楽施設はありません」

僕は、監視員として教えられた通りに、真面目に答えていた。

「あら、そうなの? 駅前の、お弁当屋兼ファスト・フード店の『ほかほか百舌屋』にたどりつくまで、あたしのお腹が、持ちそうにないわ。困ったわね?」

永澤雅美ちゃんが、本当に困っていた。

ごおうごおう。

轟音がした。

彼女のスクール水着のお腹が鳴ったのだ。

「だから、家に帰りましょうって……」


僕が、そう言おうとしたときだ。


「あら、こんなところにお肉があったわ」

僕は、白くて柔らかい物に、左右から挟まれていた。それは、パンだった。ハンバーグ用の。ただし直径が2メートルあった。僕の身体が、空中に持ち上げられていた。

まさか?

どこに、パンがあるんだよ。

「いただきま〜す!」

白くて厚いふかふかパンの障壁に遮られて、籠ってはいたが、永澤雅美ちゃんの声がした。


「助けてくれ〜!」

絶叫していた。

「もう遅いわ」

 どこかすぐ目の前で、真沙子ちゃんの声がした。たぶん、彼女の口のすぐ前にいるのだ。女の子のミルクのような口臭を感じる。

「雅美の食欲を止められるものなんて、あるわけがないもの。だから、こんな危険なところに、来るべきじゃなかったのよ。うらむなら、お母さんを恨んでちょうだいね。女の喉の奥には、宇宙があるのよ?知ってた?そこを、じっくりとあなたの目で見てくることね。それじゃ、さようなら」

そんな。

あんぐり。

パンの生地を通して、熱風が吹きこんできた。口の中の匂いがした。

それから。パンが傾いていった。

あ〜ん。

ごくり。簡単に飲みこまれていた。親鳥がくれた餌を、何でもお腹の中に入れてしまう、雛鳥のような食欲だった。

 圧力がかかっている。食道を通過しているのだろう。

 酸っぱいような匂いが立ち込めていた。ねばねばする胃壁の粘膜に揉まれていた。消化作用に、上下左右に、もみくちゃにされていた。パンが徐々に解けて崩れていく。さっきまで固かった生地に、ずぶずぶと、両手と両足が沈んでいく。僕の身体も溶解していた。幼稚園の女子生徒の、胃液の沼に埋っているのだ。

パンといっしょに、地獄へのジェット・コースターに揺られていた。たぶん、永澤雅美ちゃんと、真沙子ちゃんが水着から、普通の服に着替えているのだ。女の子らしい、たわいない会話が、腹筋と胃壁の厚い壁を透過して聞えてくる。しかし、泣いても、叫んでも、答えは何もなかった。二人とも、僕を食べた事さえ念頭にないらしい。

やがて。

 僕は、もう半分以上溶けていた。原型がなかった。胃の幽門が開いて、むにゅうと十二指腸に送られた。苦い胆汁を掛けられていた。長く長く蛇行する小腸のトンネルで血と肉を吸われた。大腸では水分を吸収された。人間の姿は、ほとんど残っていない。永澤雅美ちゃんの、便になっていった。空気は屁の臭いしかしない。直腸に大便として溜まっていた。明日の朝は、トイレに排泄される運命だった。

そんな。こんな最期は、嫌だ。出してくれ〜!!






9.萌えるペニス


 目を醒ましていた。


 どこにいるのだろうか。頭を上げようとした。激しい頭痛がした。めまいがする。頭がぐらぐらする。まだ起き上がれなかった。目だけで、周囲の様子を伺っていた。白いシーツが広がっていた。天井を見上げていた。遥かな高みに照明の器具があった。悪夢を見ていたような気がする。その内容は、まったく思い出せなかった。脂汗をかいている。思い出せないで幸福かもしれない。

 まだ、矩香さんの部屋にいるのだ。どうやら、広大な面積のある白いシーツの上に寝かされているのだ。矩香さんのベッドの上に、寝かされているような気がした。
甘いミルクのような彼女の体臭が、温泉地の硫黄の香の様に空気に重く沈殿していた。体の上にシーツを被せられていた。

洗いたてのシーツが、全身の皮膚に当る感触が気持ちがよい。全身? 僕は、なんとか起き上がっていた。僕は、何も身につけていなかった。全裸だった。


 がちゃり。

 ドアが開く大きな音がした。湯とシャンプーの香とともに、暖かい空気が、もわりと部屋に流れ込んできた。どうやら、ドアの向こうは、バスルームになっているつくりらしい。なんと、全裸の矩香さんの姿が、そこにあった。髪に白いタオルを巻いている。ごしごしと拭いていた。


「あら、もう目が覚めたの?」

 矩香さんは、ベッドに歩いてきた。ぶるんぶるん。乳房が揺れている。僕と目と目があった。顔が赤くなっている。恥かしそうな、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

「ごめんなさいね。つい夢中になっちゃって。楽しませてもらったわ。コリン君が、おっぱいを吐いていたことに、気がつかなかったの。本当にごめんなさい」

 ずし〜ん。

 巨大な尻が、ベッドに座った。スプリングが、その膨大な重量を受けとめて沈んでいった。ベッド全体が、矩香さんのお尻の方に傾いていった。

「気分はどう?」

頭を拭いていたタオルを胸に当てていた。矩香さんの巨大な手の指が、僕の額に触れていた。シャワーを浴びてきたばかりだから、ひんやりとしている。気持ちが良かった。

「お洋服は、全部、洗濯中よ。わたしの母乳や体液で、汚してしまったから。ごめんなさいね」

そうだったのか。僕は、矩香さんの胸元で嘔吐したのだ。申し訳なかった。

「こちらこそ。済みませんでした」

「謝ってくれるなんて! コリン君って。優しいのね。あなたを大人の玩具代わりに、使わせてもらったわ。ありがとう。そんなつもりは、なかったのに。…私、溜まっていたのね!? 全部、私の責任だわ!」

矩香さんの冷たい手が、僕の顔にあたっていた。それから、シーツを持ち上げられていた。僕の全身を冷してくれていた。

「ほんというとね。コリン君に、乳首を含ませていたときから、私、感じちゃっていたの。空いている方の手で、オナニーしちゃった!夢中になっちゃって。つい、胸に抱いていたあなたにも、力をこめてしまっていたの。ごめんなさいね」





それから、矩香さんは、真沙子ちゃんには話さないと僕に固く約束させた。何か、こうした禁止を前にも聞かされた気がする。気のせいだろうか?

 インドのモヘンジョ=ダロから、さらに奥地のヒロバ遺跡の発掘に移動した、夫の仁内友則先生からの連絡が、この一週間、取れなくなっていると、暗い顔で離してくれた。

矩香矩香さんは、僕を口に含んで立たせてくれた。

「コリン君が、立ったわ」

喜んでいた。





 僕達、「歴史同好会」の面々は、高校の卒業記念に矩香さんの身体で、初体験を済ませている。全員、童貞だった。一度に、六名の男子生徒に、彼女は全身を使って、男の喜びを教えてくれた。感謝している。セックスは、女性の方に主導権があった。合意がなければ、体格差から実行は不可能である。

「童貞狩り」別名「ミルク搾り」は、ある程度、年上の女性の手で、普通に実行されていた。この団地にも「青少年健全育成委員会」というボランティアの主婦達の集りがある。週末の夜の集会室を、自由に解放してくれていた。先輩達の話では、仁内矩香さんも、時々、参加しているようだった。

僕達の初体験については、仁内友則先生も承知の上だった。今度のインドへの調査旅行でも、長期間不在になる。出航の際に、地元にいる僕は、矩香を愛してくれと公式に頼まれていたのだ。

 僕達六名を、一度に胸に抱いてくれながら、矩香さんは、自分が真沙子ちゃんを、医師の立会いの上で自然分娩したことと、先生との性交渉で妊娠したことを語ってくれた。どちらも、現在では珍しい事例なのである。
一人の男性の力だけで女性に快感を与えるのが、不可能になっている。一対多というセックスが普通だった。
しかし、矩香さんが、本当に愛している男性は、仁内先生だけだと言うことは、痛いほどに分かっていた。つまり、僕達、全員は、失恋の心の痛みも彼女に教わったのである。他の仲間の足が、自然に遠のいていっても、僕だけは性懲りもなく、通い続けていたのだ。



 彼女は、僕の要求することに、すべて応えてくれた。

 それ以上だった。

矩香さんの肉体の花園は、すばらしかった。開かれ、目覚め、花開いていた。「歴史同好会」の仲間の分も、がんばった。何度も何度も愛していた。仁内先生との約束を守った。そして、自分の愛することができる女が、ここにいるのだ……。



 何度目かの行為の後で、矩香さんが僕のペニスをしゃぶっていた時のことである。

いきなり電話が鳴った。

 彼女は、はっと口を離した。心配そうな顔で、受話器に飛びついた。矩香矩香さんの顔が、太陽のように明るくなっていた。その顔を見た瞬間に、僕はすべてを悟っていた。仁内友則先生が無事だったのだ。


そして、僕は、やっぱり勝てなかったのだ。



 僕が次に出た。音声は、罅割れていた。インターネットも繋がらない奥地である。びっくりするような話ばかりだった。あらたな出土品から、地球上には、巨大な女性達が存在していた証拠が確認できた。第三次性徴世界の謎に迫るような古代遺跡オジャンダが、ついに発見された。
ガイア隕石によって石山の崖が崩落した跡に出現したエローダの石窟寺院からは、二倍体から三倍体の巨大な女神を、男性が礼拝するレリーフが、ほぼ完全な原型を保って出土されていた。
一万五千年前以前の地層からだった。そこに彫られていた文字は、現在も解読されていない。

先生は、第三次性徴の謎に付いても、いろいろなことが分かった。帰国したら、詳しく日本の学会でも報告するからと話を結んだ。矩香と真沙子をよろしく頼む。そう頼まれていた。力強い声だった。また真沙子が帰ってきたころに連絡する。電話が切れた。





ヒン、カラ、カララ〜


 駒鳥が鳴いている。

 窓から見下ろしていると、僕が迷宮だと思っている秘密の花園の構造が、夕方の斜めの光りの中ではっきりと見えた。朱色の煉瓦の線が、未知の古代文字のように思えた。

 やがて、僕達、人類が、第三次性徴世界の秘密を、解き明かすことができる日が、訪れて来るのかもしれない。先生の情熱な話に耳を傾けていると、もしかすると、夢ではないのかもしれないと思えてくることもある。

しかし、本当に解けるのだろうか?

 僕は、矩香さんに好きだと言われた、懐疑的な目付きをせざるを得ない。

 たとえば、この団地から、一歩外に出て、駅までの商店街を歩くとする。通学の帰宅時間にあたっていた。通りは、女子中学生や高校生でいっぱいだろう。彼女たちの平均身長は、成人男性の3倍である。6メートルの身長がある。この団地の二階の部屋など簡単に覗ける。僕のアルバイトの、一個6キログラムのハンバーグは、彼女達の巨大な胃袋に、お昼ご飯として消費されていったことだろう。

第三次性徴をした女性と、それ以外の「男子供」とは、歩く道も異なっている。車道と舗道の区別があるようなものだ。成人男子が歩いている三倍体の女子高生と、軽く身体的な接触をしたとする。軽自動車に、ぶつかられたような衝撃があった。場合によっては命が危ない。

しかし、二倍体と三倍体の女性の間では、そのような明確な区別はない。

三倍体の少女の間で、「妊娠ごっこ」と言うのが流行っていた。自分の彼氏を、子宮に入れてしまうのだ。臍の緒まで繋がっている。彼女が無痛分娩で出産してくれるまでは、男は胎内で羊水の海に浮かびながら、眠って過す。実際に妊娠しているように、お腹を丸く膨らませる。そのかっこうが、可愛いいというのだ。
たまに、お腹を内側から寝ぼけた彼に、ぼかんと蹴飛ばされるのも楽しいという。動いたといっては無邪気に騒いでいる。青い地球の写真を、腹部にプリントしたマタニティ・ドレスを着ている者がいた。球形のお腹を地球に擬えて、遊んでいるのだ。


 二倍体の矩香さんは、彼女達の間に入れば、子供のようなものである。ぼやぼやしていると、突飛ばされるかもしれない。いつも、どきどきしながら買い物をしているのだという。「ウザイ」や「キモイ」という感情的で、単純な反応が、彼女達の特徴だった。

真沙子ちゃんの時代には、第三次性徴の女性の巨大化は、さらに進行しているかもしれない。この初期に建設された二倍体専用団地が、過疎になってしまったのも、二倍体では止らずに、成人してからも成長が続き、ここでは住みにくくなってしまったさん三倍体の女性達が、多数、出現しているからである。


ヒン、カラ、カララ〜


駒鳥が鳴いている。もうすぐ真沙子ちゃんが、帰ってくるだろう。窓の外は、赤い赤い夕焼けだった。




 つまり、二倍体の矩香さんは、第三次性徴世界の女性としては、小柄で可愛い体格なのである。


 彼女はヌードにエプロンだけという格好で、僕にステーキをご馳走すると言ってくれた。

「レアで、いいかしら?」

 白い胸元が、内側からほんのり赤く染まっていた。僕は、いくら愛しても、心は先生のものである矩香さんを、これからも、愛していくのだろうと思った。

せめて。今、できるのは、彼女の体の渇きを癒してあげる事だけだ。

尊敬する恩師の妻を愛するのは、楽しく、そして辛い経験だった。母乳のように、ほのかに甘かった。




 庭で遊んでいる真沙子を、迎えにいってちょうだい。

 夕飯の支度で忙しい矩香さんに、お願いされていた。

 空は、血のように赤い夕焼けだった。僕は団地の中の、朱色の焼き煉瓦を隙間なく埋め込んだ道に、母親の面影を宿した美少女を捜していた。秘密の花園は謎を秘めて、深く静まり返っていた。


 それは、矩香さんのようでも、真沙子ちゃんのようでもあった。矩香さんは、仁内友則先生を愛していて、僕のことなど眼中にない。どうすれば注目してもらえるのか、どうしても分からない。

真沙子ちゃんは、これから、第三次性徴を迎える。どのような巨女に変身して行くのか、予想もつかない。女性は、いつの時代も男性にとって、永遠の謎だったのだ。

 しかし、それでも、僕は彼女たちと生きていこうとしている。

母乳のおかげだろうか? 僕の肩は、痛みがすっかり取れて楽になっていた。全身の細胞が熱かった。いままでにないほどの太さと硬度で勃起していた。母乳には、滋養強壮の効果があるというのは、本当の話だったのだ。
ペニスは、太陽に向かって延びて行く植物の芽のように、すくすくと萌えている。身体は嘘をつかない。心よりも正直だった。それを磁石の針にする。


僕は更に一歩、秘密の花園の迷宮に足を踏み入れていた。






第三次性徴世界シリーズ

えろえろ。 了





【作者後記】
この作品は、ある巨乳の美人女優の突然の婚約発表の記者会見を、テレビで耳にした直後に一気に書かれました。
風変りなポルノ小説として、消費して頂いて一向に構わないのです。でも、ある秋の一日の、ほろ苦い青春時代の断片にも、なっているつもりです。お楽しみください。(笛地静恵)





笛地さんのこの作品へのごいけん、ごかんそうなど、なにかありましたら…
WarzWars(アットマークは正しく直して…)まで、おしらせください。


<Graphs-Topへ>